【医師監修】妊娠初期の食欲増加・食欲減退はふつう?

この記事の監修者
監修者プロファイル

医師天神尚子 先生
産婦人科 | 三鷹レディースクリニック院長

日本医科大学産婦人科入局後、派遣病院を経て、米国ローレンスリバモア国立研究所留学。その後、日本医科大学付属病院講師となり、平成7年5月から三楽病院勤務。日本医科大学付属病院客員講師、三楽病院産婦人科科長を務めた後、退職。2004年2月2日より、三鷹レディースクリニックを開業。

妊娠食欲イメージ

 

妊娠中にはさまざまな体の変化がありますが、なかでも食事に関するものはとても身近に感じる悩みではないでしょうか。ここでは、妊娠初期の食欲増加や食欲減退が起こる理由や気を付けることについて解説します。

 

 

妊娠初期に食欲が変化する理由

妊娠初期にはhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)とプロゲステロンというホルモンが増加します。

 

hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は将来胎盤になる絨毛組織から分泌されるホルモンで、妊娠初期のエストロゲン(卵胞ホルモン)のレベルを維持し、プロゲステロン産生を増強して基礎体温を上げる作用をもちます。

 

プロゲステロン(黄体ホルモン)は、妊娠初期に妊娠を維持する作用をもちます。また、消化器系の内面の平滑筋を緩めさせて、腸の動き(蠕動運動)を減少させる作用をもちます。これは、食べ物を胃や腸内をゆっくりと時間をかけて移動させることで、効率よく栄養の吸収をするためです。

プロゲステロンは栄養の吸収を高めますが、胃腸の機能を低下させるため、胃酸や胃内容物が食道へ逆流して胸やけを起こしたり、腸内にガスが溜まりやすくなったり、便秘や胃酸過多が起こる原因にもなります。このような消化器症状が、妊娠初期は特に食欲の増減を左右します。


妊娠初期は、胎児の発育に膨大なカロリーが必要というわけではないため、たくさん食べる必要はありません。特につわりの時期は食べやすいものを食べること、食べられる量を食べることが大切です。果物など酸味が強いものを好むタイプもいれば、ジャンクフードや香辛料の効いた食事を好むタイプもいます。一般的には脂肪分の多いものや、刺激物は悪影響を与えるといわれるもののいずれの場合も、体重が顕著に増加しない限りはこの時期に限っては食べてもかまいませんが、食べる量を抑制できない場合は助産師や栄養士へ相談しましょう。

 

また、妊娠したことに対する緊張感や生活環境から受けるストレスも食欲に影響しますので、妊娠初期は食欲が不安定なもので、つわりは気合いだけで乗り越えられないものだと妊婦自身とその周囲の人が理解することも重要です。

 

 

妊娠初期に食欲が増したときに気を付けること

食事のバランスを見直す

食欲が増して抑えられなくなると、急激に体重が増えることがあります。また、糖分や塩分、脂質の摂りすぎや、母親と赤ちゃんの身体づくりに必要な栄養バランスが偏ることもあります。厚生労働省の「妊産婦のための食事バランスガイド」には、妊婦が一日になにを、どのくらい食べたらよいかが示されているので、参考にして食事のバランスを見直しましょう。質問や心配なことがあれば、助産師や栄養士へ相談しましょう。

 

食べるタイミングや順番を変えてみる

食事を一定の間隔をあけて食べる、よく噛んで食べて1回の食事に時間をかける、野菜や汁物から食事を始めて空腹を満たしてから食べる、適度な油分を取り入れて腹もちをよくするなど、食べすぎない工夫をしましょう。また、食事を抜くと血糖値の変動が激しくなるため、結果的に体重増加を招きます。1日3食を基本的な習慣にしましょう。

 

同じメニューばかり食べない

食べやすいものを食べているうちに同じメニューにはまってしまい、好みのメニューを繰り返し食べてしまう場合は、栄養の偏りが心配ですので気を付けましょう。外食やお惣菜を買うときは、いろいろな食材を摂るために、彩りが豊かなメニューを選びましょう。

 

甘いおやつばかり食べない

食欲が増してきても、妊娠初期は食べやすいものと食べづらいものがあるかもしれません。口当たりのよい甘いおやつは気分転換のためには必要ですが、食べすぎには注意が必要です。1日200kcal程度を目安に、不足している栄養を補うつもりで食べるものを選びましょう。例えば、果物や小魚、ナッツ類、ヨーグルトなどがおすすめです。また眠る前におやつを食べることは控えましょう。

 

 

妊娠初期に食欲が低下したときに気を付けること

食べやすいものを食べる

食欲が低下している時は、噛みやすいもの、喉ごしがよいものを摂りましょう。食欲がない時期は、カロリーや糖分、塩分、栄養の偏りを過剰に気にせず、食べやすいものを食べましょう。口の中をさっぱりさせるために、冷たいものを好む方もいます。冷えを気にする方もいますが、口に入れたときの温度のまま全身を巡るわけではありませんので、まずは口当たりのよいものを食べたり飲んだりしましょう。

 

空腹を避けるために、こまめに食べる

空腹時に吐き気や嘔吐がある場合は、一回に食べる量を少なくして、食べる回数を増やして、空腹になる時間を短くしましょう。朝の起床時に吐き気や嘔吐が強い場合は、夜中に起きて少量くらいなら食べてもかまいません。ガムや飴、グミ、チョコレートで空腹を満たしてもいいですが、高カロリーなものだけに偏らないように気を付けましょう。

 

水分をこまめに補給する

脱水を予防するために、こまめに水分を摂りましょう。水を飲みこみづらい場合は氷の欠片をなめたり、砕いた氷を食べて水分を補ってもかまいません。食事もとれず、水を飲むことさえ難しい場合は、入院治療が必要な妊娠悪阻(にんしんおそ)の可能性がありますので、速やかに産婦人科へ受診しましょう。

 

可能な範囲で、ビタミンB群を含む食材を選ぶ

妊娠初期は、ビタミンB群が不足すると、母体と胎児へ影響を及ぼすことがあります。
緑黄色野菜や豆腐、納豆、肉、魚など入手しやすい食材に含まれているので、なるべく食事からビタミンB群を摂るように心がけましょう。

 

・葉酸…胎児の成長を助ける。遺伝子を調整する働きをもつ。
・ビタミンB1…糖をエネルギーに変換する作用をもつ。
・ビタミンB2…脂質の代謝に必要。美肌を保つ作用をもつ。
・ビタミンB6…たんぱく質と脂質の代謝に必要。つわりの症状を軽くする働きをもつ。
・ビタミンB12…貧血になるのを予防する造血作用をもつ。

 

イオン飲料の飲みすぎに注意する

食欲がない時に、水分補給としてイオン飲料(スポーツドリンク、経口補水液など)を飲む方もいると思いますが、飲みすぎには注意しましょう。健康に良さそうなイメージはありますが、糖やミネラルなどを含むものの、糖をエネルギーに変換するビタミンB1を含まないため、多量に飲んだり、水分補給をイオン飲料だけに限定してしまうと、ビタミンB1欠乏による脚気(かっけ:末梢神経障害や心不全)、ウェルニッケ脳症(眼球運動の異常、歩行困難、意識障害)を引き起こす危険性があります。つわりや体調不良でイオン飲料しか飲めない場合は、妊婦用マルチビタミン剤の服用を併用するか、速やかに産婦人科へ受診しましょう。

 

 

まとめ

妊娠初期の食欲の変化は、個人差があります。日常生活に支障がない程度に食事がとれていれば問題はありません。栄養の偏りや体重の変動が気になる、あるいは食欲のコントロールができない場合は、助産師や栄養士へ相談しましょう。つわりの症状が辛い場合は速やかに産婦人科へ受診しましょう。

 

参考:

・厚生労働省 妊娠中と産後の食事について <http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/ninpu-02.html>
 

 

 

 

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