夫の孤独な週末
息子が3歳、娘が生後10カ月のときの話です。私たち家族は、夫の転勤に伴って都心から離れた海沿いの街に引っ越してきました。車で少し走れば、海が望める温泉旅館があり、海派の私は「いつか家族で行きたいな」と思っていました。一方の夫は、私とは対照的に山派で、山でキャンプをするのが趣味。夫のリクエストに応え、何度かキャンプに出かけたこともありますが、幼児や乳幼児を連れてのキャンプは過酷です。
子どもから目が離せないうえに、下の子はまだ歩けないので、夫が機材を準備したり、火をおこしたりしている間、私はずっと抱っこをしたまま。いつも慌ただしく、正直楽しいとは思えませんでした。
そんなとき、テレビを見ていると、行ってみたいと気になっていた温泉旅館の特集が流れてきました。その旅館は海が見える部屋に温泉までついていて、食事も部屋でできるので、子連れでもゆっくり過ごせそうなところが魅力的でした。私が「ここ、行きたいなぁ。ゆっくり海を見ながら温泉に入りたい」と言うと、隣にいた夫は無関心な顔で「ふーん」とだけ返事。
私は夫の反応に少し落胆しましたが、「素敵な場所だと思わない? 家族でここに行く計画をたてようよ」と続けました。すると夫は「俺は興味ないから、子どもを連れて3人で行ってきたら」と言うのです。夫の顔には「どうせお前1人で子ども2人を連れて旅行なんて行けるわけがない」という、高を括ったような油断が透けて見えました。腹が立った私は「いつも一緒にキャンプに行ってるんだから、たまには私の行きたいところにも付き合ってよ」と迫ったのですが、夫から返ってきたのは「俺は興味のないことに無駄に時間を使いたくないんだよ」のひと言。
あまりのひどい言い方に心底腹が立ち、私は夫の提案通り、子どもと一緒に週末に出かける計画を立てました。しかし、自分だけで子どもの面倒を見るのには限界があるので、母を誘うことに。夫に「無駄な時間」と言われたこと、3人で行けと突き放されたこと。それを聞いた母は怒り心頭で、「冷たいのね! わかった、私が一緒に行ってあげる。孫たちとの温泉も楽しみだしね」と、私の密かな“ショック療法”に大賛成で加担してくれたのです。事前に知らせると、夫がプライドから「勝手なことをするな」と邪魔をしてくるのは目に見えていたため、当日まで完全に秘密にすることにしました。
当日までバレないように準備を進め、夫が自分の買い物に出かけたあとに出発しました。旅館は、予想以上の快適さ。のんびり海と温泉を堪能し、料理も大満足。母も子どもたちも笑顔いっぱいで楽しそうです。すると、その日の夜、夫から「みんないないけど、どこだよ!?」と慌てた声で電話がかかってきます。私が努めて冷静に母と旅行中だと伝えると、夫は「なんで勝手に行くんだよ!」と激昂。「あなたが興味ない、無駄な時間を使いたくないって言ったんでしょ。自分の発言、忘れたの?」と返すと、夫は言葉がないのか、唸ったまま無言。私は「明日の夕方には帰るから」と言って電話を切りました。その後、夫はひとり、寂しい週末を過ごしたようです。
腹いせとはいえ、私もさすがに事前連絡くらいはしておくべきだったかなと反省。帰宅後、夫は不機嫌でしたが、自分の蒔いた種でもあるせいか、深く追及はしてきませんでした。そして、この一件以来、少しは私の意向も聞き入れてくれるようになりました。少し行き過ぎた“ショック療法”かもしれませんが、言葉で通じない相手には、時にこうした実力行使も必要だと感じています。
お互いの気持ちを尊重することが家族円満の秘訣と、改めて実感させられた出来事でした。
著者:中村あんな/30代・ライター。6歳の長男と2歳の長女を育てるママ。家計を支えるため、ライターの傍らパートも開始。夫は激務のため、子育てはほぼワンオペ状態。常に子どもたちが楽しめるイベントや遊び場を模索中。
作画:ryo
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年1月)