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【不妊治療の4月の保険適用について】取り組むハードルは下がるが本格的に治療したい患者さんに対しては難しい制度となった

4月の保険適用で患者さんへの影響や病院でのリスク、また、適用内容についての気になる点を中心に、不妊治療の専門家・浅田先生にお話をお伺いしました。

この記事の監修者
監修者プロファイル

医師浅田義正先生
浅田レディース品川クリニック 院長

名古屋大学医学部卒業。名古屋大学医学部附属病院産婦人科医員として「不妊外来」および、「健康外来(更年期障害・ホルモン補充療法)」の専門外来を担当後、米国初の体外受精施設に留学。主に顕微授精(卵細胞質内精子注入法:ICSI)の基礎的研究に従事。95年に名古屋大学医学部附属病院分院にてICSIによる治療開始。顕微授精症例の全症例を担当し、同年5月、精巣精子を用いたICSIによる日本初の妊娠例を報告。98年ナカジマクリニック不妊センター開設。2004年浅田レディースクリニック(現・浅田レディース勝川クリニック)開院。10年に浅田レディース名古屋駅前クリニック、18年には浅田レディース品川クリニックを開院。多くの不妊に悩む女性と日々向き合っている。近著に、『実践「浅田式」標準不妊治療学』(協和企画)『よくわかるAMHハンドブック 第2版』 (協和企画)『名医が教える最短で授かる不妊治療』(主婦の友社)『女の子が知っておきたい卵子のハナシ。』(主婦の友社 ) など多数。
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不妊治療は本当に安くなる?メリット・デメリットは?

編集部:今回の保険適用で、「これまでの治療が安くなる!」と喜ばれている患者さんも多いのではないでしょうか?

 

浅田先生:患者さんの中には、「“今までやっていた”治療が3割の自己負担でよくなる」と思っている方も多い。

今回の改定は、「保険診療」。つまり、決められた用法・用量等の中での治療なので、「自由診療」とは違います。つまり、今までのように検査の頻度が高く、薬剤の投与量も多く、複数の技術の治療を望まれる方にとっては、望んでいる治療にはならず、今までの助成金のほうがよかったということになる方も多いと思います。

 

編集部:用法・用量の範囲だと、限られた不妊治療ということになりますね。

 

浅田先生:生殖補助医療に関わる医療技術等の評価について、たとえば、「採卵術」「体外受精・顕微受精管理料」「受精卵・胚培養管理料」「胚凍結保存管理料」が同じ個数で点数算定されています。が、当院のデータでは、30代前半の平均培養結果の個数では、良好胚盤胞を1個得る、胚盤胞を約3個得るのに成熟卵子は約10個必要となっています。
採卵、受精操作、受精卵、胚盤胞凍結の実際に必要な個数はそれぞれ違っているのに、個数基準が同じ、加えて、すべて10個以上が同一料金になっており、実際の体外受精の状況は反映されていないように感じます。

 

編集部:患者さんにとって他にデメリットはありますか?

 

浅田先生;治療計画でパートナー同席受診についての項目も入っていますので、夫婦での育児・家事負担を推奨しているものの、共働きが増えた昨今を考えると、時間調整がしづらくなるかもしれません。仕事と不妊治療の両立という方針に逆行している感があります。

 

編集部:病院にとってのリスクはどのようなものがありますか?
 

浅田先生:病院にとっては、同じ病名で保険適用と自由診療の混合診療ができない。もしそれをやってしまったら、審査後遡ってすべて返金ということになるので、間違わないようにしないといけない。患者さんにとっても、混合治療(保険と自由診療の組み合わせ)自体ができると思っている方が多いので、説明が分かりづらくなると思います。

 

編集部:メリットはありますでしょうか?

 

浅田先生:とはいえ、保険適用が3割負担ですむため、コスト面で踏み出せなかった方には、不妊治療をやってみよう、というハードルが低くなるなり、相談しやすくなるということは期待できます。また、不妊じゃないと思っている方にも始めるきっかけを作れると思います。

病院にとってもそういう方が増えるのは嬉しいことです。ただ、保険診療は限られた範囲の不妊治療なので、それでうまくいかなかった場合、自由診療に切り替えることになることも説明しておく必要があるでしょう。

 

編集部:ほかにも保険適用の件で、気になる点はありますか?

 

浅田先生:ほかにも、胚培養士について、男性不妊治療等、複数気になる点があります。

 

「胚培養士」という不妊治療にとって大事な役割の制度や免許については、触れられていなかったことが、残念です。「中医協総会資料』あるいは、『生殖補助医療に係る医療技術等の評価②(生殖補助医療管理料(その2)」の中の「施設基準」によると
「(4)配偶子・胚の管理に係る責任者が1名以上配置されていること。(5)関係学会による配偶子・胚の管理に関わる研修を受講した者が1名以上配置されていることが望ましい。(15)配偶子・胚の管理を専ら担当する複数の常勤の医師または配偶子・胚の管理に係る責任者が確認を行い、配偶子・胚の取り違えを防ぐ体制が整備されていること。」とあります。

胚培養士の資格や業務に必要な資材・機材の許可等について、記載がありません。

 

生殖医療の心臓部にあたる、ラボの業務をどういう人が、どうやってやっていくのかが全然記載されていません。

 

私自身はICSIがライフワークになっており、2007年までピペエット作りもICSIもやっていました。また、自身も院内で5段階のステータス基準を設け、教育システム(ISO9001)で実践的に胚培養士を育成しているので、胚培養士の将来を心配しています。

 

編集部:他にもありますでしょうか?

 

浅田先生:全胚凍結を2012年から実施しておりますが、常々、どの年齢においても、新鮮胚移植よりも凍結融解胚移植の方が移植あたりの妊娠率は高くなります。

 

したがって、10年前より新鮮胚移植はしてきませんでしたが、今回、復活ということになります。

 

また、「男性不妊治療(男性不妊治療に係る医療技術等の評価」では、TESE(精巣内精子採取)の「精子凍結」については保険適用になっていません。

 

AMH(アンチミュラリアンホルモン)が「調節卵巣刺激」前に6ヶ月に1回と認められました。

本来、AMHは不妊治療を始める時に検査するのがよいと思います。当院では「不妊治療をどうステップアップさせるのか」のスピードを、年齢とAMHで決定させています。今回の保険適用では残念なことになりました。

 

編集部:まだまだいっぱい課題があるということですね。

 

浅田先生:ですが、保険診療で最大のパフォーマンスが発揮できるよう、がんばります。今後も時間をかけて、新たなガイドラインも改正されて、レベルの高い生殖医療ができるようになり、患者さんにとって科学的、医学的、計画的な不妊治療ができるようになっていければと思います。

 

編集部:本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

 

 

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