
私は、精密機器メーカー本社で、グループ全体の技術管理を担当する統括責任者を務めています。各工場の現場改善や業務システムの見直しを担当しており、普段からグループ会社の工場へ足を運び、実際に働く社員たちの声を聞くことを大切にしてきました。そんなある日、作業服姿で利用した社員食堂での出来事が、社内に根付いていた“暗黙のルール”を見直すきっかけになったのです――。
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「作業服の人間が社食を使うな?」
その日は、グループ会社の工場設備を確認するため、朝から現場を回っていました。私は役職に関係なく、現場へ入るときは必ず作業服を着ます。実際に働く人たちと同じ目線で状況を見ることを大切にしているからです。
昼休みになり、社員食堂を利用していると、現場統括を担当しているA田部長から突然声をかけられました。
「君、どこの部署だ?」
A田部長とは画面越しに何度か同席したことはありましたが、大人数の会議ばかりで、私の顔までは覚えていなかったようです。直接顔を合わせるのは、この日が初めてでした。私は突然のことに驚きつつ「え……」と言いよどんでいると、A田部長は私の服装を見て作業員だと勘違いしたのか、不満げな表情のまま続けます。
「この時間帯は、管理職も使うんだ。現場の人間は、少し時間をずらすのが暗黙のルールだろう」
「最近の若手は、そういう空気も読めないのか」
ここは社員なら誰でも使える社員食堂のはず。それでもA田部長の口ぶりは、まるで「作業服の人間はこの時間に使うな」と言っているようでした。私は違和感を抱きつつも、「利用制限があるなら失礼します」と返しました。
すると近くでやりとりを聞いていた若手社員のB子さんが、「すみません! こちらの食堂、誰でも利用できますので……」と言いながら、慌ててこちらへ駆け寄ってきたのです。B子さんは総務部で、現場改善プロジェクトのサポートを担当している社員です。以前から、現場スタッフの声を丁寧に拾い上げてくれる姿勢が印象的でした。
ただ私は、それ以上場を荒立てるつもりはありませんでした。「お気づかいありがとうございます。食事、とてもおいしかったです」とだけ伝えて席を立つと、背後からA田部長の「何なんだ、あいつは……」という声が聞こえてきました。
今まで通りを優先した結果
数日後、B子さんから謝罪の連絡をいただきました。私が帰った後も、A田部長は「社食には暗黙のルールがある」「最近は秩序を軽視するやつが増えた」と不満を口にしていたそうです。
私はその話を聞きながら、A田部長が慣習を守ることを最優先にしている人物なのだと改めて感じました。そしてその価値観は、現場改善への向き合い方にも表れていたのです。
実際、以前から現場では、
「昔からこのやり方だから」
「今まで問題がなかったから」
という理由で、小さな改善提案が後回しにされるケースがありました。私は、それこそが組織の停滞につながる考え方だと感じていたのです。








