
東京で不動産営業として働いていた私が、実家の老舗旅館を継ぐために帰郷。さびれた温泉街で再建に奮闘する中、思いがけない話が舞い込みます。
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帰郷直後に突きつけられた厳しい現実
帰郷して間もないある日、父が収支資料を前に肩を落としながら、「このままじゃ、先が見えないな……」と言いました。
観光客は減少し、周囲の旅館も次々と閉業。幼なじみの実家も、外部の開発業者に売却する話が進んでいると聞きました。私も現実的な選択肢として売却の可能性を提案しましたが、父は「何とかしてこの旅館を守りたい」と首を横に振ります。
そして、
「実は、資金面で支援を申し出てくれている会社がある。ただ……その会社の方から、お前に娘さんを紹介したいと言われていてな。話を聞くうちに、縁談のような形になってしまったんだ」
と言いました。予想外の話に、私は思わず言葉を失いました。父は「無理にとは言わないが、一度相手の娘さんに会ってみてくれないか」と頭を下げたのです。
流れで決まった結婚と、距離のある2人
迷いはありましたが、旅館を立て直したいという思いもあり、私は彼女と会うことにしました。
彼女は落ち着いた雰囲気で、言葉づかいも丁寧。率直に「すてきな人だな」とは感じましたが、恋愛感情が芽生えるというよりは、お互いに相手を静かに見極めているような時間でした。彼女も同じように考えていたのだと思います。会話は穏やかでしたが、どこか一線を引いた距離感がありました。
それでも何度か顔を合わせるうちに、旅館のことや地域の将来について話す機会が増え、気付けば私たちは、ビジネスパートナーのような間柄になっていったのです。こうして、強い感情に押されるでもなく、流れの中で結婚という形に落ち着きました。
彼女は静かに言いました。
「これは家同士の事情から始まった関係だと思っています。ただ、やるからにはきちんと向き合いたいです」
私も同じ気持ちでした。こうして始まった新生活は、夫婦というよりも、同じ目標に向かうパートナーのような関係からのスタートでした。








