
私は34歳で、夫と結婚して5年目になります。夫の実家は、農薬や化学肥料にできるだけ頼らず、手間をかけて野菜を育てる農家です。人と話すことが好きな私は、義父に勧められて営業を担当するようになりました。既存の飲食店からの注文対応や納品の調整を中心に、時々新しい取引先への提案もしています。ただ、農園の売り上げは、1社の大口取引先に大きく頼っていました。
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契約更新後に突きつけられた条件
農園には、先代のころから長く付き合いのある大口の取引先がありました。近隣でレストランを3店舗運営する会社で、私たちは全店舗へ定期的に野菜を納品していました。数カ月前、先代の息子が新たな代表に就任しました。
その際も「これまで通り取引を続けたい」と言われ、従来と同じ条件で契約を更新していたのです。ところがある日、新しい代表から電話がかかってきました。
「来月から、納入単価を今の半額まで下げてほしい。難しいなら、今後の取引は終了ということで」
農園とレストラン側は、1年ごとに取引基本契約を更新していました。品目ごとの単価は別紙の価格表で定め、毎月の数量は個別の発注で決めていたのです。更新時に単価も確認したばかりだったため、翌月から半額まで引き下げたいという突然の申し出に、私は言葉を失いました。
「契約を更新したばかりですよね。すでに発注いただいている分もありますので、まずは契約内容を確認させてください」と答えると、代表は面倒くさそうな声で「では、改めて話しましょう」と言い、電話を切りました。
契約書を確認すると、契約期間の途中でも、終了を希望する場合は1カ月前までに書面で通知すること、すでに確定している注文については予定通り対応することが記載されていました。
私は夫と義父に相談し、半額の値下げには応じず、電話だけで話を進めない方針を家族で確認しました。面談で条件を確認した上で、その内容を記録に残すことにしたのです。
当時、義父は腰を痛めて入院中で、夫も収穫作業で手が離せない状況でした。そこで、営業を担当する私が面談に臨むことになりました。
約束した日時にレストランを訪れると、代表は悪びれる様子もなく「もっと安く仕入れられる業者が見つかったんです。お宅の野菜は仕入れ価格が高すぎるし、見た目にもばらつきがある。正直、そこまでこだわる必要はないと思って」と言いました。
私が「価格には、栽培や選別、品質管理、配送にかかる費用も含まれています。半額まで下げれば、これまでと同じ品質で納品し続けることはできません」と説明すると、代表は鼻で笑いました。
「仕入れ先が変わったって、お客さんにはわかりませんよ。野菜なんて、料理にしてしまえばどれも同じでしょう」
長年、農園の野菜を大切に扱ってくれていた先代とは、考え方が大きく違うようでした。私は悔しさを抑えながら「その単価ではお引き受けできません。契約書の解約条項に沿い、予告期間後に取引を終了することで承知しました。確定済みの注文には、これまで通り対応します」と答えました。代表は「それで結構です」と冷たく言いました。
収穫を控えた野菜の行き先
面談後、代表から書面で解約の通知を受けました。1カ月の予告期間中に確定していた注文は予定通り納品し、その後、契約を終了することになったのです。
しかし、私たちはこれまでと同程度の注文が続くと見込み、過去の発注実績をもとに作付け量を決めていました。このままでは、契約終了後に出荷先の決まっていない野菜が畑に数多く残ってしまいます。
そこで、解約通知を受けた直後から、私はこれまで名刺を交換した飲食店や、既存の取引先へ1軒ずつ連絡しました。農園のSNSでも、野菜の詰め合わせを期間限定で販売することを告知。夫と協力し、出荷できる品目や時期、数量を一覧にまとめました。
そんな中、入院していた義父から連絡がありました。入院中の義父は、同じ病棟で知り合った男性に農園の話をしていたそうです。その男性は以前、地元のホテルで料理人として働いていたそうです。義父より先に退院すると、後日、農園を訪ねてくれました。
試食用の野菜を持ち帰ってもらったところ、味を気に入ってくださり、以前勤めていたホテルの仕入れ担当者を紹介してくれることになったのです。
その後、仕入れ担当者が農園を訪れ、栽培の様子や納品できる量、配送方法などを確認しました。数回の試験納品をおこなった後、ホテルへ打ち合わせに行ったところ、料理人から「味がしっかりしていて、料理にしても存在感がある。良い野菜ですね」と評価していただいたのです。
その言葉に、手間をかけて育ててきたことが報われたように感じました。試験納品での評価を受け、まずはホテル内のレストラン1店舗へ、継続して納品することになりました。
それから少しずつ注文が増え、同じ会社が運営する別のレストランからも声がかかるようになりました。既存の取引先も無理のない範囲で一時的に発注量を増やしてくれたため、行き場を失いかけていた野菜の多くを出荷することができました。これまで築いてきた取引先とのつながりと、義父がつないでくれた新たな縁に支えられたのだと感じました。








