分娩予定日を過ぎても赤ちゃんが生まれないと、おなかの中の赤ちゃんが愛おしくもあり、心配にもなると思います。今回は、過期産によって起こる問題と医療機関の対応についてお話します。
過期産とは?
医学的には妊娠37週0日~41週6日の間に分娩することを「正期産」としています。妊娠42週に入っても分娩に至らないものを「過期妊娠」といい、妊娠42週0日以降に分娩することを「過期産」と呼びます。
過期妊娠や過期産が問題となる理由
過期妊娠や過期産が起こる原因は今のところ解明されていませんが、妊娠40週以降は、おなかの中の赤ちゃんや胎盤、羊水などに変化が起きることがわかってきています。
妊娠40週以降は下記のような状況がいつでも起こる可能性があります。
羊水過少
おなかの中の赤ちゃんは、子宮の中でおしっこをします。正期産の時期になると、メカニズムは不明ですがおなかの中の赤ちゃんのおしっこの量が少なくなるため、羊水量は徐々に減り始めます。この状況で胎盤の機能低下が進むと、おなかの中の赤ちゃんと胎盤の血液循環に障害が起き、さらに羊水量は減り、「羊水過少」という状態になるケースがあります。羊水は子宮のなかでクッションのような役割をもつため、羊水過少になると臍帯が圧迫されること状態が起きやすく、胎児が子宮内で低酸素状態になる頻度が増え、胎児の健康状態が危険にさらされる可能性があります。
胎便吸引症候群(たいべんきゅういんしょうこうぐん)
おなかの中の赤ちゃんは、子宮の中でおしっこをしますがうんちはしません。しかし36週以降におなかの中の赤ちゃんが低酸素状態に陥るとうんちをしてしまいます。うんちの混じった濁った羊水をおなかの中や生まれたときに赤ちゃんが吸い込んでしまうと、重い呼吸障害を引き起こすことがあります。これを「胎便吸引症候群」といいます。
妊娠期間が42週を超えることで下記のような問題が起こります。
巨大児
おなかの中の赤ちゃんが順調に発育し続けて、妊娠42週を迎えるころに巨大児(出生体重が4,000g以上)となる可能性があります。巨大児となると、出産のときに赤ちゃんの肩がなかなか出てこなかったり、生まれてくるときに鎖骨を骨折してしまうなどの外傷を引き起こす恐れがあります。また、母体の頸管や会陰に深い傷を作ることがあります。
胎盤の機能低下
妊娠42週を超えると、胎盤が老化して胎盤の機能が低下します。するとおなかの中の赤ちゃんの栄養や酸素が不足し、成長が緩やかになることがあります。
胎児死亡や新生児仮死
妊娠42週を超えると、時に胎児死亡や新生児仮死を起こすことがあります。出産が近づいてくると胎動が少なくなるという情報を信じる方もいますが、これは間違った情報です。胎児は子宮の中で20~40分間のサイクルで眠ったり目覚めたりしています。少なくとも1~2時間に1回は胎動を感じるはずなので、いつもより胎動が少ないと思う場合や胎動を感じられない場合はすぐに産院へ電話をして受診しましょう。
過期妊娠や過期産にならないためには
妊婦さん本人が過期産をしないためにできることは、妊婦健診に通うことです。また、医療機関では、過期産にならないようにガイドラインに沿って下記のような対応をしています。(※1)
1.妊娠初期の胎児計測値などから分娩予定日が正しいことを再確認する
分娩予定日を過ぎてもなかなか分娩の兆候が表れない場合は、医師は妊娠初期の診察結果やおなかの中の赤ちゃんの発育状況を確認して、分娩予定日を再度確認して分娩方針を考えます。
2.胎児の健康状態を週2回以上診察する
妊婦健診は、妊娠36週以降は基本的に週1回のペースでおこないますが、分娩予定日を過ぎても赤ちゃんが生まれそうにない場合、ノンストレステスト(NST:分娩監視装置による胎児心拍数の確認)、超音波検査による羊水量や推定体重の計測、おなかの中の赤ちゃんの健康状態の確認など、医師は診察する回数を増やして今後の方針を考えます。必要に応じて入院をすることもあります。
3.妊娠41週に入ったら誘発分娩をおこなうか、自然な陣痛が来るのを待つ
妊娠41週台になったら、母体の子宮頸管の熟化(出産が近づいて子宮口付近が軟らかくなること)があるかないかを確認して、陣痛の誘発をするのか、自然な陣痛が来るのを待つのかなど、今後の方針を考えます。
4.妊娠42週0日を迎えたら、誘発分娩をおこなう
妊娠42週以降は、それ以前の週数に比べて児の死亡率が急上昇することから、母子の生命の守るための最善策として誘発分娩をおこないます。
このように、国内の医療機関では、妊娠初期に分娩予定日の修正をおこなったり、母子の安全を優先して過期妊娠に至らないように対応しているため、過期産の頻度は年々減少傾向にあります。(※2)
まとめ
分娩予定日を過ぎて赤ちゃんが生まれる兆しがないと不安になるかもしれませんが、妊婦健診をきちんと受けて、担当の医師や助産師のアドバイスを参考に、赤ちゃんが生まれる瞬間を待ちましょう。
参考:
※1 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」
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