契約締結日に吉報
それから10日後。いよいよ、正式な契約締結日です。私は、製造部門の責任者である兄を伴って訪問したのですが、出てきた女性秘書は兄のこともすぐに嘲笑し始めたのです。
「あんたもヨレヨレの作業服で、いかにも無能そう……所詮は下請けでしょ」
無礼な秘書のことは事前に伝えておいたので、兄もいちいち取り合わず、会議室まで案内を頼みました。
会議室では、なんと社長を筆頭に取締役が勢ぞろいで私たちを歓迎してくれました。というのもちょうど先日、わが町工場が画期的な新製品を開発したことが全国紙に掲載され、兄は開発者として一躍時の人となったからなのです。
秘書のくせに時事に疎く新聞も読んでいなかった彼女は、兄を見てもわからなかった様子。「そ、そんな……」と、しどろもどろになっています。そんな秘書には気付かず、社長が満面の笑みで言いました。
「今から、その画期的な部品の納入契約を結びます。わが社にとっても歴史的だから、幹部全員が集合しましたよ」
顔面蒼白になった理由は
「ありがとうございます。ただ、契約締結の前に」と話し始めた兄。「こちらの秘書さんに、妹が心外なことを言われまして……。汚い作業服で営業は身の程知らずだの、オンボロ町工場だの。先ほど私も、無能そうだと形容されました」
兄はペン型ボイスレコーダーを取り出し、再生させました。すると、今さっき秘書が吐いた暴言の数々がばっちり録音されていたのです。これには社長はじめ役員もぼう然。その横で、女性秘書は顔面蒼白です。
そのまま兄は、冷静に続けました。「たとえ元請けと下請けでも、対等な立場での信頼関係が大切ですよね。このような扱いをされるのであれば、御社との提携にも不安が募ります」
社長は大慌てで平謝り。「こ、今後は社員教育を徹底し、秘書にはしかるべき処分を下しますので、どうかご容赦を……」








