アルバイトは60代の無職男性
経営は思うようにいかず、売り上げは減る一方。アオキさんに辞めてもらうことも考えましたが、菓子職人としての腕はピカイチ。父の味を再現できるのは彼だけなのです。
求人を出しても、経営の傾いた個人店で働きたいという人はなかなか現れず……。「誰でもいいから雇え」と催促するアオキさんをなだめながら、ようやく応募してきてくれた60代の中年男性をアルバイトとして採用することにしました。
ところが、アオキさんはこれも気に入らなかったよう。「無職のジジイを雇うなんて」とブツブツ文句を言う始末。私は何とかうまく彼と協力してくれるよう、頭を下げてお願いしました。
不安を抱えながら新人を迎えた数日後……。驚くような事実が判明したのです。
おじさんが本領発揮!
早速仕事を始めた新人アルバイトの中年男性。意外なことに何を頼んでもそつなくこなし、人当たりも良く、店頭でも人気者に。アオキさんは逆におもしろくなかったのか、彼にも冷たく接し始めました。何かあると「ケーキの1つも作れないくせに」とバカにするのです。
さすがに見かねた私がアオキさんを注意。しかし彼は逆ギレし、「ジジイとベテランパティシエの俺とどっちを取る?」と豪語してきました。
すると、それまで黙って見ていた中年男性がゆっくり口を開きました。「アオキさん、あなたは自分を見失っているのでは? 横暴な態度で周囲を不快にさせていては、人を喜ばせるケーキは作れません」と。そしてキッチンに入り、華麗な手さばきで美しいケーキを作り上げたのです。
その手際の良さは、元気だったころの父が働いているようでした。おまけに、完成したケーキの味ときたら! アオキさんでもこれまで再現できなかった、父の幻の逸品と同じだったのです……。








