入店拒否されたおじいさん
私がKのお店に行くと、彼が軒先で怒鳴っていました。相手は、ヒゲで顔の半分が隠れたボロボロの身なりのおじいさん。一輪車を手にして入口前の地面にうずくまっていました。
「私は一輪車で日本一周を目指していて……。昔の知り合いからこのケーキ屋の話を聞いたのだが……」。しかしKは、「こんな汚いジジイを出入りさせたら評判が落ちる」と、おじいさんを追い払いました。私が慌てて駆け寄ると、彼のおなかがぐぅ~と鳴りました。
「あの、売れ残りでよかったら、うちのケーキを召し上がりません?」。こうしておじいさんにケーキを食べてもらうことに。すると、ひと口食べて驚いたような表情になりました。
それは、私がケーキ屋に憧れたきっかけの味を再現した一品。「実は昔、祖父の知り合いの有名な役者さんからいただいたケーキがとてもおいしくて。夢をくれたその人に今でも感謝しています」
するとおじいさん、「ごちそうさまでした。とてもおいしかった。私はもう行くよ」と頭を下げたのです。「ケーキをごちそうになった上、いい話を聞かせてもらった。ありがとう」
数日後、銀行に行くと…
その数日後。資金繰りのため銀行に行くと、お店の口座に100万円の振込があったことが判明。驚いて振込人名を見ると、なんとつい先日話題に出たばかりの、祖父の知り合いの役者さんでした。
慌てて祖父経由で役者さんに連絡を取った私。振込のことを尋ねると、「先日のお礼だよ」と言うのです。「やっぱり気付いていなかったか。ヒゲだらけでボロボロだったからなぁ」
そう。彼はあのおじいさんだったのです。聞けば、日本一周一輪車の旅は無事に終えたのだとか。「恥ずかしながら旅の途中で財布を落としてね。おまけに山で遭難し、命からがら下山したところだったんだ。ちょうどその辺に、後輩の役者から息子のケーキ屋があると聞いたのを思い出して頼ってみたが、入店を拒否されてね。君のことは昔の面影があったからすぐわかったよ。ケーキも絶品だった」
私は、先日のケーキを喜んでもらえただけで光栄でした。それにこんな大金は受け取れません。すると、月末に役者仲間を集めて祝賀会をするから、そのためにケーキを注文してくれたのです。もちろん私は、心を込めて作ったケーキをお届けしたのでした。








