
23歳の私は、夢だった飲食の仕事を学ぶためにフランスで暮らしています。学生時代に母を亡くしてからは、年の離れた兄2人と姉、そして父の5人家族。父は仕事と家事を両立しながら、私たちを一生懸命育ててくれました。しかし1年前、父ががんで闘病していると聞き、看病のため一時帰国することにしました。
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父のそばにいたかっただけなのに
父は以前から体調不良を訴えていましたが、多忙で受診が遅れ、見つかったときにはすでに治療の選択肢が限られていました。私は「もっと早く病院へ連れて行けていれば」と悔やみましたが、残された時間を大切にしようと、フランスの生活を一旦止めて帰国しました。
本来なら兄たちや姉と交代で父を支えられるはずでしたが、3人とも看病にはほとんど関わらず、私がほぼ付き添いを担うことに。不満がないわけではありませんが、今は父のことだけを考えようと自分に言い聞かせていました。ところがある日、兄と姉が唐突にこう言ったのです。
「遺産は、末っ子以外で分けることにしたから」
「とにかく、そういう話になったからな」
父はまだ生きているのに、この話題を出すこと自体がつらく、私は「今は父を支えることが先だよ」とだけ答え、深く関わらないようにしました。
父がかすかに残した言葉
看病を続けていたある日、病室に兄たちの姿がありました。話を聞くと、医師に病状を尋ねに来たとのこと。しかし、父のすぐそばで「あとどのくらいなんでしょうか」などと口にした兄たちを見て、胸が締めつけられました。
「ここで話すことじゃないよ」と私は兄たちに席を外してもらいましたが、ふと視線を向けると、父が起きていました。父はしばらく天井を見つめた後、私に静かに言いました。
「お前には、相続のことで負担をかけたくない。できれば放棄も考えてほしい」
突然の言葉に驚きながらも、私は「お金のことより、今はお父さんが大事だよ」とだけ伝えました。父はかすかに笑い、それが私たちの最後の会話になりました。








