理不尽さに向き合い、覚悟を決めた夜
話を聞いた私は、居ても立ってもいられず、B山部長に直接意見を伝えました。A子さんがこれまで積み重ねてきた努力や、確かな技術力、周囲からの信頼について説明し、「不安要素はあっても、挑戦する価値は十分にある」と訴えました。
しかし返ってきたのは、「彼女のためを思って言っている」「背伸びして無理な役職に就くものじゃない」という言葉だけ。昇格試験を受ける機会すら与えない姿勢に、私は悔しさでいっぱいになりました。
その夜、雨の中で必死に外回りをしていたA子さんを見かけました。泣きはらした顔で「背中を押してもらったのに、ごめんなさい」と謝る彼女に、私は思わずこう口にしていました。
「よかったら、一緒に起業しない?」
私は、前社長への恩義があったこと、この会社が好きだったこと、そしてB山部長が来てから職場が変わってしまったこと、さらには本当は自分の会社を持ちたかったという思いを、正直にA子さんへ打ち明けました。A子さんは、「部長の言葉がすべて意地悪だったとは思わない。自分に足りない部分もある」と冷静に受け止めた上で、それでも「一緒にやりたい」と答えてくれました。
数日後、私たちは退職届を提出しました。その際、B山部長に「私の代わりはいるかもしれません。でも、A子さんの代わりはいません。後悔することになると思います」と静かに伝えました。
立場が逆転した、その後の現実
実際、私たちが去った後、会社では少しずつ取引がうまく回らなくなったと聞きました。特に、A子さんが一件一件丁寧に築いてきた信頼関係が失われた影響は大きく、B山部長はそこで初めて自分の判断の重さに直面したようです。
一方、私は数名の仲間とともに新しい会社を立ち上げました。A子さんも社員のひとりとして参加してくれています。誠実で的確な対応と確かな技術力で、彼女は次々と案件を広げ、期待以上の活躍を見せてくれました。
それから約1年後。A子さんが大切にしてきた相手から、大きな仕事の話が舞い込みました。それは偶然にも、以前の会社と取引のあった相手でした。
結果的に、仕事の流れがこちらに移る形になりましたが、B山部長の古い価値観は、取引先の間でも以前から疑問視されていたようです。日ごろから信頼関係を築いてこなかった結果だと考えれば、特別なことではないのかもしれません。
大型案件も無事にまとまり、祝賀会の後、A子さんは静かに「あのとき誘ってくれて、信じてくれて……本当にありがとうございます」と言ってくれました。私は笑って「こちらこそ。信じてついてきてくれて、ありがとう」と答えました。
まとめ
性別という一面的な理由だけで人の可能性を判断し、結果として大きな機会を逃してしまった人もいます。能力や実績ではなく、先入観で線を引いてしまえば、誰がどれほど力を持っていたとしても正当に評価されることはありません。立場や肩書きに惑わされず、人そのものを見て信じること。簡単なようで難しいことですが、その大切さを改めて実感しました。今はただ、信頼できる仲間とともに前を向き、選んだ道を歩めていることに、静かな確信を持っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。








