説明しても、届かない言葉
私は会議後、冷静にこう伝えました。
「リモートワーク自体を否定しているわけじゃない。ただ、業務に必要な環境が整っていなければ、結果的にクライアントや他の社員に迷惑がかかる。それを無理に『改革』として通すのは違うと思う」
しかしA男は、自身の準備不足には触れず、「古い考え方の人には理解できない」と笑うだけでした。
翌日、社長からA男に注意がありました。「案件を逃すところだった」という内容です。ところが、副社長は「新人がリモートで対応できなかった程度で会議が進まないのは、課長の管理不足だ」と、私に責任を向けました。
実際には、私や現場にいた同僚が急きょ先方を訪問し、機器を直接説明したことで、案件は無事に成立しました。それにもかかわらず、評価されるどころか責任だけを押し付けられたことに、私は深く失望しました。
そして、私は退職を決意したのです。
それぞれの“改革”の行方
私の退職後、A男はさらに働き方改革を推し進めたそうです。残業削減、自由なリモートワーク、休暇先での業務などを独断で始めた結果、業務の進捗にばらつきが生じ、管理職や周囲の社員が対応に追われる状況になったと聞きました。
一方、私はB子さんの会社に転職しました。そこでは、まず業務の無駄を洗い出し、タスク管理を自動化。工程を見える化することで、社員の負担を減らしながら成果を上げる取り組みがおこなわれていました。私はそこで、「これこそが現場に根ざした本当の働き方改革なのだ」と実感しました。
その後、A男の改革が「ラクをすること」を正当化しただけだったことは、次第に周囲にも明らかになったようです。社長や副社長もようやく事態を理解し、職場環境の立て直しに追われていると聞きました。
転職して1年が過ぎたころ、B子さんが笑顔で声をかけてくれました。
「あのときの会議、覚えていますか? あなたの臨機応変な対応と現場での説明に、私たちはとても感心していました。結果的に、素晴らしい人材を迎えられて本当によかったです」
その言葉を聞き、これまでの苦労がすべて報われた気がしました。自分の判断は、間違っていなかったのだと、心から思えた瞬間でした。
まとめ
働き方改革は、「ラクをすること」でも「声の大きい人の意見を通すこと」でもありません。現場や取引先、そして一緒に働く人たちへの配慮があってこそ、初めて意味を持つものだと、今回の経験を通して強く感じました。理想を語ることは簡単でも、責任を持って成果につなげるには準備と覚悟が必要です。環境を整え、無駄を省き、チーム全体が前向きに働ける仕組みを作る。それが本当の改革なのだと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。








