
私は30代で、建設関連の技術職として働く会社員です。現場と事務作業を行き来する日々の中で、責任だけが増え、人手は足りない。そんな状況が続いていました。
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心身ともに限界だった、あの日の出来事
ある日、無理な工程を押し付けられ、ほぼひとりで現場対応をすることに。ようやく最低限の作業を終えたころには、先日の雨の影響もあり、服は泥だらけ。心身ともに疲れ切っていました。
さらに追い打ちをかけるように、現場のプレハブ事務所の施錠を失念していたらしく、戻ると置いていたカバンが見当たりません。中には財布もスマートフォンも入っていました。
「…今日は本当に、踏んだり蹴ったりだな」
警察に連絡する気力も湧かず、重い足取りで歩いて帰ろうとしていたときのことです。声をかけてくれたのは、近くにあった食堂の前を掃除していた女将のA子さんと、その娘さんでした。現場の若手が何度か利用していたことは知っていましたが、私はその日が初めての訪問でした。
「大丈夫ですか?」という娘さんの心配そうな声に、思わず立ち止まります。事情を聞いたA子さんは、「よかったら店の中で少し休んでいってください」と声をかけてくれました。恐縮しつつも甘えると、温かい定食を出してくれ、帰りの電車代まで貸してくれたのです。
静かな店内と、親子の穏やかな雰囲気に、張り詰めていた気持ちが少しずつほどけていくのを感じました。
小さな恩返しのつもりが、思わぬ展開に
翌日、職場で仕事をしながらも、前日の出来事が頭から離れませんでした。「せめて、きちんとお礼がしたい」と思い、週末の現場打ち上げの店にその食堂を選びました。人数は50人ほど。予約の電話を入れると、A子さんは驚いた様子でした。
当日、本当に大勢で店を訪れると、「本当に来てくれたんですね」と、A子さんは笑顔で迎えてくれました。店内は一気に活気づき、仲間たちも料理のおいしさに感心していました。
食事の合間、A子さんはぽつりぽつりと、店の現状を話してくれました。離婚後、女手ひとつで店を続けてきたこと。最近は予約直前のキャンセルや地代の負担が重く、経営が厳しいこと――。
「すみません、こんな話をしてしまって」
私は、ただ静かに耳を傾けることしかできませんでした。








