
私は中堅部品メーカーの工場で、製造ライン全体の品質保証を担当しています。毎朝、設備の稼働状況や不良率の推移を確認し、現場を歩きながら「今日も問題なく製品を送り出せるか」を確かめることが日課でした。そんな日常の中で、ある小さな違和感に気付いたのです。
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見過ごせない、わずかな異変
いつものように点検をしていたある朝、異物検査用カメラの映像に、わずかな乱れがあることに気付きました。すぐに大きな故障につながる状態ではないものの、放置すれば品質事故を招きかねません。
私は迷わず取引先の担当であるB山部長に連絡しました。しかし、受話器越しに返ってきたのは、イラ立ちを隠さない声でした。
「その程度で連絡してくるな」
品質への影響を説明しても、B山部長は取り合おうとしません。
「まだ動いているんだろう。現場で応急対応しておけばいい」
現場を預かる立場としての不安と、責任を押し付けられている感覚が胸に残りました。この違和感が、後に重要な意味を持つことになるとは、この時点ではまだわかっていませんでした。
現場の声を信じた決断
数日後、現場をよく見ている若手技術者のA子さんが、真剣な表情で私に「このまま稼働を続けるのは危険だと思います。ラインを止めるべきです」と声をかけてきました。
ライン停止は、自社にも取引先にも影響が出ます。判断を誤れば、その責任はすべて私に及ぶでしょう。それでも契約内容や品質基準を確認した上で、私は決断しました。
「わかりました。止めましょう。責任は私が取ります」
B山部長にも連絡を入れましたが、電話はつながらず、報告のメールも反応はありませんでした。出荷停止の影響が取引先全体に広がると、B山部長は工場に乗り込み、強い口調で私を非難しました。
私は感情的にならず、事実と契約内容に基づいて説明しました。
「契約に沿った判断です。影響を最小限に抑えるため、現在全力で復旧作業を進めています」
それでもB山部長は、損失を理由に取引中止を示唆しました。その様子を見ていたA子さんは、「自分の進言のせいでは」と涙を浮かべていました。
「違います。あの判断は正しかった。あなたは何も間違っていません」
それは、彼女だけでなく、自分自身に言い聞かせる言葉でもありました。








