


母の背後に、先ほど道で見かけた「びしょ濡れの女」が立っているのが目に入った瞬間、「見ちゃダメ!」と思いました。
見ない! 何も見ていない! 不気味な女なんて絶対に見ていない!
「あんた、さっきからなんか変じゃない?」
母の声は、よく聞き取れませんでした。だって、母の声に被さるように聞こえてくるんです。
ここよぉ ここ ここよ ここにいるの
訴えてくるような、女の声が……。
その場を離れると、女の気配も、あの声もまったくしなくなりました。
それでも心臓は早鐘を打ち続けています。
なんだよあの女……!? これまでの人生で、霊なんて見たこともありません。
こんなとき、どうすればいいのかまったくわかりません。
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母の声に重なるようにして響く、あの女の声。視覚的な恐怖だけでなく、聴覚にまで日常が浸食されていく描写には、思わず息をのんでしまいます。初めての異様な体験に、どうすればいいかわからずパニックになるのは当然のことでしょう。
理屈では説明できない存在を前にしたとき、恐怖に飲み込まれそうになりますが、まずは意識を別の場所へ逸らしてみるのも一つの手かもしれません。心臓の音が耳に届くほどの緊張感の中、ただ過ぎ去るのを待つしかない時間が、どれほど長く感じられたことでしょうか。
※このお話は体験談をもとに作成していますが、個人が特定されないように多少の脚色を交えています。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。








