



う、うわぁああああ!
椅子から滑り落ちた音に驚いた母が駆けつけてきたときには、不気味な女の姿は消えていました。
同時に、部屋に充満していた土の匂いもどこかへ……。
なぜ、彼女は僕に着いてきたのか。見てはいけないものを直視してしまった恐怖で、気が気ではありませんでした。
翌日、玄関を出ると足跡が続いていました。昨日から今朝まで、雨なんて降っていないのに……。足跡を追っていくと、住宅街の用水路に続いていました。
ガードレールもなく、危険と言われ続けている場所です。
「もしかして、ここで……?」
実際、用水路で事故にあったという話は何度も耳にしています。
社会人になり、実家を離れた今に至るまで、あの霊は僕の前に姿を現していません。
しきりに「自分はここにいる」と繰り返していた彼女は、僕に存在を認識されたことで満足したのでしょうか。それとも、今も霊となった自分に気付いてくれる誰かを探しているのでしょうか……。
あの、真っ黒な瞳の奥で。
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「女は待っている」は今回で最終回です。高校生という多感な時期に、これほど強烈で、翌朝にまで「足跡」という物理的な痕跡が残る体験をされたこと、その恐怖は計り知れません。しきりに「ここにいる」と訴え続けていた女性の霊。もし、ガードレールのない用水路で起きた悲しい事故が原因だったとしたら、存在を認識されたことで彼女の心も少しは救われたのでしょうか。彼女が抱えた苦しみや痛みが、今はもう解放され、穏やかな世界へと旅立っていることを願わずにはいられません。
※このお話は体験談をもとに作成していますが、個人が特定されないように多少の脚色を交えています。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。








