
私は、祖父から受け継いだ田んぼと畑で、米と野菜を育てています。この日も、作物が順調に育っているかを確認していました。稲の苗は順調に育ち、「そろそろ田植えの準備だな」と考えていたそのとき、弟と両親が連れ立って現れたのです。胸騒ぎを覚えながら、私は鍬(くわ)を置きました。
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突然告げられた「交代宣言」
田んぼに入ってきた父は、前置きもなく言いました。
「この田んぼは、弟に継がせる」
弟は軽い調子で「今日までご苦労さん」と笑い、父はさらに「俺も早期退職して手伝う」と続けました。私は内心、「やはり、そう来たか」と思いました。
祖父から農地を引き継いだ当初、両親も弟も「きつくて汚くて厳しい農業なんて無理だ」「すぐに収入にならない仕事だ」と、口をそろえて否定していたのです。
それが、私が何年もかけて経営を安定させた途端、この話でした。私は多くを語らず、「……わかったよ」とだけ答えました。
現場を知る人の沈黙
すると、その場に居合わせていたA子さんが、言葉を失いました。A子さんは農機メーカーに所属し、私が現場経験を生かして自作した土壌センサーや自動散水装置の検証を担当してくれていた技術者です。
父はA子さんに向かい、「現場経験より、大学で農業を学んだ弟のほうが家業に向いている」と説明し、さらに「あなたも引き続き関わってもらえるから安心してください」とまで口にしました。しかしA子さんは、静かに首を横に振ります。
「私は雇われている立場ではありません。彼の現場の工夫があってこその仕事です」。その言葉に、弟と両親は顔を見合わせ、どこか嘲るように笑いました。「中卒の三十男は、もう役目を終えたってことだ」。そのひと言で、すべてがはっきりしました。
弟は「大卒」を誇りに、AI導入やドローンによる効率化、大口契約の構想を語り始めました。「兄貴みたいな、細かいやり方じゃなくていい。全部まとめて効率化する」。父と母は、その話に大きくうなずいていました。
私は、農業の現実を何も理解していないと感じましたが、あえて口を挟みませんでした。そして覚悟を決め、「じゃあ、私が自作した機械や、個人で借りていた設備は全部引き上げる」と告げたのです。
弟は鼻で笑いながら「そんなの、邪魔なだけだ。むしろ助かるよ」と言いました。








