
私は、金属やステンレス家具を製造するC社で工場運営を担当しています。ある日、同僚のA子さんと新製品の試作について打ち合わせをしていると、1本の電話が入りました。発信者は大学時代の同期、B山。彼は現在、木製家具を扱う大手企業D社で営業職として働いており、将来的に経営を担う立場にある人物です。
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圧倒的な設備と、違和感
「うちの工場を見学に来ないか? そっちじゃ見られない設備を見せてやるよ」
B山はどこか見下すような口調でしたが、勉強になるならと考え、A子さんとともに見学へ向かいました。D社の工場には、最新のAI制御機器や大型設備が整然と並んでいました。設備規模では、たしかに当社よりもはるかに上です。
B山は誇らしげに説明しながら、「これからは人より機械の時代だ。効率がすべてだよ」と言いました。合理性を追求する姿勢自体は理解できます。しかし、現場の職人に対する言葉や態度には、どこか冷たさがありました。私はそのとき、設備の差よりも「空気の違い」のほうが強く印象に残ったのです。
見学後、休憩スペースで何人かの職人さんと話す機会がありました。皆さん高度な技術を持ち、誇りをもって仕事をしている方ばかりです。ただ、現場では生産性重視の方針が強まり、熟練の感覚を生かしきれない場面も増えているとのことでした。
私は軽い気持ちで「もし環境を変えたいときがあれば、ぜひ声をかけてください」と言いました。
引き抜きを意図したわけではありません。ただ、「人を大切にする会社」でありたいという思いが、自然と口をついて出た言葉でした。
人の力が生んだ変化
それからしばらくして、数名の職人さんがC社へ応募してきました。転職はあくまでご本人の判断です。私たちは通常の採用手続きを経て迎え入れました。
彼らの技術が加わったことで、製品の完成度は明らかに向上しました。AI設備では再現できない微妙な手触りや曲線の美しさが評価され、少しずつ受注も増えていきました。
私たちは設備投資も進めながら、「人と機械の両立」を目指しました。さらに、残業時間の見直しや作業工程の改善にも取り組み、働きやすい環境づくりを進めました。
結果として、社内の雰囲気は安定し、売上も着実に伸びていったのです。








