武蔵野赤十字病院(東京都武蔵野市)産婦人科部長インタビュー

大病院でありながら、妊婦さんへの気づかいを感じる産婦人科

梅澤先生「武蔵野赤十字病院の産婦人科は、大きな産婦人科というイメージ。お産の数は多摩地区では一番ですし、婦人科の手術件数も年間1,500件と多いです。なので、地域の人たちから信頼されていると自負しています。

武蔵野赤十字病院は、原則、特定機能病院なので紹介状がないと受診ができません。ただし、産科だけは、当院で分娩を希望される妊婦12週までの方は紹介状と予約は必要ありません」

産婦人科部長 梅澤 聡先生

梅澤先生「武蔵野赤十字病院産婦人科の特徴の1つは、セミオープンシステムを採用しているところですね。最近都内では増えてきていますが、妊婦健診を地域の開業の先生にお願いして、分娩は武蔵野赤十字病院でおこなうというものです。

健診についても、必要があれば緊急時や夜間の対応はこちらでおこないますが、妊娠経過が順調、問題がないと判断した方は、妊婦さんが希望されれば、クリニックで妊娠32週ぐらいまで継続してみてもらえるようになっています。

協力いただいているクリニックとは、月に1度会合を持ち、リスクが高かった事例やトラブルがあったケースなどの情報交換や情報提供をしたり、研修会をおこなったりしていますよ」

なんといっても外来患者数の多い武蔵野赤十字病院のこと、予約制とはいえ、待たされる時間も長いはず。毎回の妊婦健診は、近所のクリニックでゆっくり診察してもらい、分娩は医療設備が整っていて、スタッフの多い武蔵野赤十字病院で産めるというのなら、安心して妊娠生活を送ることができますね。

梅澤先生「もう1つ、助産師がとても多いのも特徴でしょうね。経験豊富な人から新卒までキャリアはさまざまですが、60人ほどいます。

妊婦健診は、助産師たちが中心になっておこなっています。ハイリスクの方やその他希望があれば医師も確認しますが、経過が順調な妊婦さんでは、妊娠経過の確認以上に妊婦さんの生活上の悩みや腰痛などのマイナートラブル、妊娠やお産に対する不安の軽減がポイントなんです。

ですから、医師が診るより助産師が詳しく聞いて受けとめてあげるほうが妊娠経過にもプラスなんですね。近年、働いている妊婦さんも多いので、助産師が対応するほうが、時間的な都合をつけやすいという利点もあります。このシステムも、最近では珍しくなくなってきていますが、多摩地域では武蔵野赤十字病院が初めて取り入れたんですよ」

どうやら総合病院でありながらも、妊婦さんのための細やかな気づかいが感じられるシステムが人気の理由のようです。

安心・安全第一をモットーにほかの科と連携して訓練も

武蔵野赤十字病院産婦人科には、地域周産期母子医療センターとして、ハイリスクの母体搬送を受け入れているという側面もあります。

梅澤先生「武蔵野赤十字病院の産婦人科は、東京都から地域周産期母子医療センターに認定されていて、新生児集中治療室(NICU)や新生児強化治療室(GCU)があり、新生児専門の医師も常勤で5名在籍しています。

私たちは、分娩する場所は一番安全なところでないといけないという使命感を持っているので、安心・安全にお産をしてもらうため、いろいろなことをしています。たとえば、緊急帝王切開の手術をどのような状況でも20分以内に終わらせる訓練もその1つです。

武蔵野赤十字病院は、年間55件ほどの母体搬送を受けていますし、ハイリスクの妊婦さんも多くいらっしゃるので、緊急帝王切開となるケースも少なくありません。緊急帝王切開は、いつ起こるかわかりませんから、たとえば震災が起こったりとか、分娩が重なって場所が足りないとか、いろいろなトラブルを考えて産科医と新生児専門医、助産師が一緒にシミュレーションしています」

緊急帝王切開グレードAシミュレーション訓練のようす

ニーズの高い無痛分娩や産後ケアサービスも開始

梅澤先生「武蔵野赤十字病院にはハイリスクの方だけではなく、妊娠経過が順調な方もたくさんいらしていますが、比較的病院のバックアップを必要として武蔵野赤十字病院を選んでいる方が多いかもしれませんね。

近年、東京都内の初産婦さんの平均年齢は30歳を超えていますが、武蔵野赤十字病院では、平均35歳を超えています。高齢化とともに体の面でも精神的にもリスクは増えますから、その点のサポート体制も整えています。

無痛分娩のニーズが増えているので、安全におこなえるよう、産科だけでなく麻酔科や救命救急科など、ほかの科と連携して病院全体で体制を整えていけるよう進めています」

梅澤先生「また、2019年の6月から、産後のお母さんの体と心の回復と、母乳育児支援を目的とした産後ケアサービス『アイルーム』も始めました。

最近は高齢出産が増えていることや核家族化が進んでいることもあって、産後に手助けをしてもらえない人が増えていますよね。産後の体調が回復しないまま孤独に育児をしていると、産後うつの心配もあります。出産後(施設退院後)から産後8週間までのお母さんとお子さん、初産婦の方のみ産後ケア用の個室をご利用いただけるようにしました。金額的には少し高いのですが、自治体からの補助も出ることになったので、利用しやすくなったと思います。

近年、働いているお母さんも多いので、産後の仕事復帰の悩みを持っている方も少なくないですが、武蔵野赤十字病院の産婦人科には、産後仕事に復帰した女性医師や助産師も多く、そのような相談にも具体的にお答えできるので、力になれると思いますね。今後、精神面で問題がありそうなケースでは、精神科とも連携し対応していく予定です」

母乳育児のサポートはママのニーズに沿うように

武蔵野赤十字病院産婦人科には、日本助産評価機構の「アドバンス助産師」の認証を受けた助産師を含む約50名の助産師が在籍しています。助産師のレベルの高さ、熱心さには定評があるそうです。「よく勉強しているし、優秀だし、温かみもあるし、ここの助産師は、プロ」と梅澤先生も、太鼓判を押されていました。

その助産師が力を入れているケアに、母乳支援があります。ホームページを見ても、母乳育児についてしっかり説明があり、力を入れている感じが伺えます。そのあたりの取り組みについて、武蔵野赤十字病院産婦人科の助産師さんに聞いてみました。

「武蔵野赤十字病院は、母乳をおすすめしていることは確かです。けれども、高齢出産やハイリスクなお産では母乳の分泌に影響を及ぼすことがありますし、働くママも増えている状況もあるので、“ミルクは絶対ダメ”といったガチガチな母乳指導は目指していないです。母乳100%であることが必ずしも母乳育児ではないという考え方で、母乳の良さも伝えつつ、ママのニーズに沿うようにサポートしています。

母乳外来は、武蔵野赤十字病院で出産していない方も利用されていますが、出産した方の場合は、授乳スタイルを確立するには5日間の入院期間では足りなかったという方などにお越しいただいて引き続き練習してもらうケースもあります。実際には、飲ませ方だったり、母乳の分泌量だったりを確認しながら、どうしたら母乳育児を続けていけるかを話しながら進めていくという感じですね。

希望があれば継続して通っていただいて、ある程度めどが立って終了という方もいますし、断乳・卒乳まで通われる方もいらっしゃいます。いずれにしても、ママたちがどういうふうに子育てしていきたいかを聞いて、その思いがかなうようにサポートすることを大事にしています。ですから、バースプランを立てていただくときに、どんなお産をしたいか、どんな子育てをしたいかを詳しく聞くようにしています」

助産師主導のさまざまな取り組みをおこなっています

「ママが出産・育児を主体的におこなってもらうために、武蔵野赤十字病院では、バースプランの作成にも力を入れていますね。出産の仕方はもちろんですが、ママになるためにどのように体と心をつくっていって、グッズの準備をしていくのか、母乳育児についてどうしていくのか、産後はだれに手伝ってもらって負担を減らしていくのかなどを、ご家族と相談して書いてもらっています。

また、武蔵野赤十字病院では、立ち会い出産希望の方に向けての両親学級や、母親学級、妊婦さんのご両親向けのプレおばあちゃん教室を開催しています。母親学級では、分娩室の見学や武蔵野赤十字病院で出産した方のボランティアによる体験談を聞く機会も設けています。そして、プレおばあちゃん教室では、妊婦さんのご両親にお越しいただいて、最近の育児の話をお伝えしたり沐浴をしてもらったりしています。けっこう人気があってたくさんいらっしゃいますよ」

プレおばあちゃん教室の風景

貴重なお産体験を楽しんでもらうための施策も

梅澤先生「武蔵野赤十字病院の産婦人科は、大きな病院ではありながら大学病院ほど病院然としていないところもいいのかもしれないですね。たとえば、陣痛室ではアロマをたいたり好きな音楽をかけたり、妊婦さんのご希望に合わせて自由にしていただいていますし、お産後のお祝い膳も病院からのお祝いの気持ちを込めて、けっこう豪華にしています。

お祝い膳の一例

梅澤先生「今は一生のうち一度しか経験しない場合も多いですから、お産を楽しみにしてほしいという気持ちをスタッフ全員が持っています。もっとも高齢化しているので、“案ずるより産むが易し”なんていう気軽さはなくなってきてはいますけどね。

大きな病院だけに、バタバタしている雰囲気はありますが、設備は整っているし、優秀なスタッフがたくさんいますから、いい施設だと思いますよ。うちの娘もここで生まれましたから。

産科というのは人生の始まりの場所ですから、安心・安全がなにより。過程ではいろいろなことがあっても、元気で退院してくれることが一番ですね。退院時に『おめでとう』と言えるのは、産科だけですから。産科医はたいへんですけど、それが一番いいところでしょうね」

「昔、先輩に、『自分が出産している夢を見たら一人前だ』と言われました。残念ながら僕は見たことないですが(笑)」と茶目っ気たっぷりに語る梅澤先生。2022年には、産婦人科の病棟が新しくなる予定もあり、ますます妊婦さんからの人気が高まっていきそうです。

産婦人科受付と明るく広い待合所
設備の整った分娩室と窓も広く落ち着いた雰囲気の個室
ご家族の方もくつろげる談話室

ベビーカレンダー編集部


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