太田総合病院(神奈川県川崎市)副院長インタビュー

先々のことも考え、自然なお産をさせてあげたい

山内先生「太田総合病院産婦人科を受診される妊婦さんは、20代前半の方と35才以上の方と二極化していて、初産婦さんと経産婦さんがだいたい半々ぐらいという感じです。

高齢初産の方もいらっしゃるので、リスクのある方も出産されていますが、ハイリスクの場合はNICUのある病院を紹介しますから、比較的妊娠経過が順調な近隣の方が多いと思います。

そういうこともあってか、2018年の年間分娩数720件前後、そのうち帝王切開が17%。分娩数がそこそこ多いわりに、昔から帝王切開率はそれほど高くないです」

産婦人科部長 山内茂人先生

近年、日本での帝王切開率は急増していると言われています。あるデータでは、20年で2倍になったという結果もあるほど。そのような状況で帝王切開率を低く保っているというのはなぜなのでしょうか? 実は、その帝王切開率の低さの裏に先生方の素晴らしい取り組みが隠れていたのです。

山内先生「私を含めて、太田総合病院産婦人科のスタッフは、なるべくなら帝王切開は避けて、自然なお産をしてもらいたいという希望があります。ですから、妊婦さんの状況や妊娠経過、おなかの赤ちゃんの様子などに問題がなさそうであれば、逆子でも双子でも、条件が伴えば前回の出産が帝王切開だったケースも自然分娩(経腟分娩)で取り上げているんです。

今どき逆子や双子などを自然分娩で取り上げる産科は、そんなにないかもしれませんね。もちろんすべてのケースで自然分娩ができるわけではないです。切迫早産になってしまうなどで、妊娠36週未満にお産が始まってしまったら、NICUのある病院に母体搬送することになりますし、そのほか、赤ちゃんやお母さんの状況から自然分娩は無理ということもあります。

けれども、逆子や双子などの自然分娩はリスクを伴うということだけで、帝王切開にしてしまうというのは違うかなと。逆子でも双子でも見極めれば自然分娩で取り上げることができますから。そのために、妊婦さんには順調な妊娠経過をたどるように努力もしていただいていますし、スタッフもスキルアップを図っています」

帝王切開は安全な手術ということで、自ら帝王切開を望む妊婦さんもいるようですが、リスクはあるのでしょうか。

山内先生「帝王切開というのは、おなかや子宮を切るわけですから、当然母体にリスクがあります。もっとも昔と比べれば傷口の癒着を防止するフィルムや麻酔の問題などが改善されてリスクがかなり低下していますが、それでもゼロというわけではないです。ですから、リスクを回避してあげたいですし、どうしても自然分娩で産みたいというお母さんも多いです。その気持ちをかなえてあげたいということで、できるだけ自然分娩でと頑張っている感じですね。

ただ、もちろん分娩時のリスクはありますから、妊婦さんやご家族との相談も大事です。ご家族も全員納得してくださって、リスクも理解していただいてそのうえでという場合でしかおこなわないようにしています。そのためには、外来の時間以外にも話し合いの時間をしっかりとることも大切にしています。

とはいえ、もし個人産院だったらできないだろうと思いますね。太田総合病院は、麻酔科医が多くいますし、設備の整備やスタッフの連携もいいので、万が一のときには瞬時に手術室の用意ができて、スタッフを集めて即手術ができるんです。そういう安心感があるから、ある程度のリスクを伴う分娩でもおこなうことができると思っています」

画期的な和痛分娩「傍頸管ブロックと陰部神経ブロック」

もう1つ、自然なお産を目指すために、山内先生が導入したことに「傍頸管ブロックと陰部神経ブロックによる和痛分娩」があります。和痛(無痛)分娩というと、日本では、硬膜外麻酔で痛みを軽減する方法が一般的です。

硬膜外麻酔による無痛分娩は、陣痛から赤ちゃんが出てくるまでの一連の痛みを軽減できるメリットがありますが、副作用のリスクも少なくないと言われていますし、費用も高くつきます。

ところが、山内先生が導入した「傍頸管ブロックと陰部神経ブロックによる和痛分娩」はとても画期的なものだそう。それはいったいどんなものなのでしょうか?

山内先生「これは1960〜70年代には一時普及していた方法なのですが、その後副作用の報告が相次ぎ、消失していた技術なのです。

近年、うまくいかなかった理由が、麻酔の際に使う注射針が原因だったということがわかったんですね。それを発見した静岡県の産科の先生が、針を改良してこの『傍頸管ブロックと陰部神経ブロック』をおこなった研究を学会で発表していて、私は興味を持ったんです。

そして静岡まで行って実際の様子を見に行ったら、その効き目のすごさにびっくり。陣痛の痛みで泣きわめいていた産婦さんが、ブロック注射をしたとたん、瞬時に笑顔になって普通に話をしているんですから!

太田総合病院でも導入したいと、即、手技を習って帰ってきたんです。その後、何カ月かのお試し期間を経て、昨年から本格的に導入したという次第です。

この和痛のいいところは、子宮口と腟付近の神経だけをブロックするため、その他の部位の筋肉にはまったく影響がなく、分娩への障害がないことです。硬膜外麻酔では、下半身の神経に影響が及ぶため、赤ちゃんを外に出す力が入りにくくなってしまうことで、分娩時間が長くなる心配が出てきます。

けれども、この方法なら、赤ちゃんを外に出す筋肉にはまったく影響がないので、分娩が長引くことはまずありませんし、血圧低下などの副作用もありません。麻酔薬も、歯科で治療をおこなうときに使う薬と同じものですし、局所麻酔なので、お母さんの体にも赤ちゃんにもまったく問題ありません。

また何より画期的なのは、お産の進み具合を見ながら産科医が麻酔薬を注入する必要があるので、麻酔科医などの手配などがいらず、結果、計画分娩の必要がなく、和痛のために陣痛促進剤や子宮頸管拡張器を使う必要もない、自然なお産ができるということです。

強いて言えば、デメリットは陣痛の痛みは防げないということですね。それでも、分娩時に最もつらい痛みを感じるのは、子宮口が全開大になるまでと、赤ちゃんが出てくるときに産道を押し広げるときですから、そのときの痛みを感じにくくなれば、かなりリラックスしてお産に臨むことができますよ」

また「傍頸管ブロックと陰部神経ブロック」による和痛をおこなうと、会陰切開をせずにすむ可能性も高くなるのだそう。

山内先生「いきむ力が強いと会陰が裂けてしまう心配が出てくるのですが、リラックスすると筋肉は伸びがよくなりますから、裂けにくくなるんですね。ですから、分娩の状況を見て、裂けそうだったら切りますが、切らずにすむ例も少なくないです。きわめて自然に近いお産ができるんですよ。

麻酔薬は1時間ぐらいで効果が切れるので、経産婦さんなら1回打てば生まれる人が多いですが、初産婦さんなら2~3回打つ場合もあります。

太田総合病院では、麻酔薬を何回打っても通常の分娩費にプラス1万円でおこなっています。事前に和痛分娩にしたいという申し出がなくても、その場の状況で麻酔を使ってほしいというご要望があればおこないます。まだすべての時間帯で対応できる状況ではありませんが、いずれいつでも対応できるようにしていきたいと思っています。現在大学から手伝いに来てくれる若い先生にも指導しています。多くの産科医に知ってもらいたいと思っています」

外来と病棟、医師とスタッフのチームワークが抜群

太田総合病院の産婦人科は、助産師さんが十数人と多く在籍しているそう。また外来では出産・子育て経験の豊富な看護師さんも多く、妊娠中の不安や悩みを相談しやすいという口コミも多く見られます。そこで、外来に在籍している看護師主任の上田光枝さんと、病棟に在籍している助産師師長の雑賀明美さんに話を聞きました。

助産師師長 雑賀さん(左)と看護師主任の上田さん(右)

上田さん「通院される妊婦さんたちにとって外来の雰囲気はとても大事だと思っているので、スタッフのチームワークはとても大事にしています。不安なことがあれば、何でも気軽に相談できるような雰囲気作りを心がけています。助産師外来や母乳外来などは特に設けていないのですが、定期健診時に妊婦さんから相談事があれば、相談内容に応じて助産師にも指導をしてもらうようにしています。

自然なお産をしていただくためには、体重管理も大切です。あまりにも体重増加が激しい初産婦さんには、ウエイトダイアリーに食べたものを毎日書き出していただき、マンツーマンで食生活の振り返りをするようにしています。意外と楽しんで書いてきてくれます。体重の数値の増減だけ気にしていると、妊婦さんがつらくなって、かえって食生活が乱れたりすることもあるので、厳しい体重制限はしていません。妊娠前の体重にもよりますが、10〜12kg増ぐらいまでが理想ですね」

雑賀さん「自然なお産のためには、妊婦さんの精神面のサポートも重要です。お産のときに、自然とお母さんスイッチが入るように、そばで静かに『寄り添う』ことをモットーとしています。今の妊婦さんたちは、情報をいろいろなところから得られるので、頭で考えてお産に臨もうとする人が多いんです。でももっと本能で自然なお産をしてほしい。だから、自分の力を最大限生かせるように、あまりこちらからは手を出さず、サポートするよう心がけています」

産後の体をゆっくり休めてもらうため完全母児別室に

雑賀さん「太田総合病院のもう1つの特徴は、産後、完全母児別室なことですね。それは、近年、核家族化や高年出産が増えていることもあり、産後だけはゆっくり休んでもらいたいというのが理由です。気兼ねなく休憩していただいて、徐々に育児に向かっていってほしいと思っています。

なので、基本の授乳スケジュールは、分娩の翌日の13時から。夜間を除く3時間おきに授乳室に集まっていただいて、助産師が指導をしながらお母さんたちに授乳をしてもらっています。授乳室で授乳をするのには、ほかのお母さんたちや赤ちゃんと接することができて、経産婦さんにも質問ができたり、ママ友ができたりする利点があるんです。授乳の機会は少なめではありますが、退院のときは不安なく自宅に帰れるようサポートしています。

そして1週間自宅で夜間授乳を経験していただき、一番つらいと言われている産後2週間のときに健診に来ていただき、退院後の不安や心配事をそこで解消してもらっています。みなさん健診を楽しみにしてくれていて、いい結果が出ているように思います」

産後2週間健診は、初産婦さんは全員、経産婦さんは希望者のみ参加し、みなさん赤ちゃんの発育状況やおっぱいのことなど、さまざまな心配事を相談していくそうです。

授乳室

妊婦さんたちの喜ぶ顔が見たくて4Dエコーを導入

上田さん「外来で人気があるのは、4Dエコー(おなかの赤ちゃんを立体的にリアルタイム映像で見られる超音波診断装置)ですね。特に男性(ご主人)からは、『父親になる実感がわきにくい』という声をよく聞きますが、4Dエコーは赤ちゃんのお顔もはっきりわかるので、わが子の顔を見るとすごく感動して実感がわいてくるようです。ですから、お休みが取れそうなときには、『ぜひ一緒に健診に来てくださいね!』っておすすめするようにしています」

この4Dエコーの導入を決めたのは山内先生だそうですが、その理由を伺うと、

山内先生「孫ができたときに、4Dエコーを見せてもらって、感動したんです。これはうちの妊婦さんたちも喜ぶと思って。もちろんこの器械を使うことで医療的にわかることもありますが、サービスですね。

太田総合病院に通っている方以外でも、4Dエコーを希望する方は、多少金額は高くなりますけど、ご利用いただいています。妊婦さんには、プリントを差し上げていますが、映像は差し上げていないので、代わりにエコー画面を動画で撮ってねってすすめています」

産婦人科病棟には、個室から6人部屋までさまざまな入院室が。施設は30年ほどたっているということで、今後入院室や共有スペースを少しずつ改装していく予定だそうです。また和痛分娩の効果をさらに高めるために、リラックスして分娩に臨む方法の1つである「ソフロロジー法」の導入も考えているとのこと。太田総合病院産婦人科は、これからも妊婦さんがより自然なお産ができるよう、さらに進化していきそうです。

窓が大きく開放感のある待合所
診察室と内診室
広く設備の整った分娩室
個室と清潔感のある洗面スペース

ベビーカレンダー編集部


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