みなみ野グリーンゲイブルズクリニック(東京都八王子市)院長インタビュー
ウーマンリブ運動に衝撃を受け、医師を目指した
やさしい笑顔で迎えてくださった桑江千鶴子先生に、医師になったきっかけやクリニックの特徴などを伺いました。
桑江先生「私は3人姉妹の真ん中で育ちました。中学生のころから『将来は24歳で結婚して、子どもを産んで、そのあとどうなるのか?』と、女性の生き方に絶望していたような子どもだったのですが、高校2年のときにアメリカで起きたウーマンリブ運動に衝撃を受け、『女性も自由に生きて良いんだ!』と気付いたんです。それから、経済的にも自立して、誰かに必要とされたいと思い、医学部を目指すようになりました。
医師になって、やはり『自由を手に入れられてよかった』と思っています。企業に入ったとしても、一つのコマでしかなかったかもしれない。医師は大変そうに見えるかもしれませんが、自由にできているので、少しも大変ではありませんよ」
桑江先生「医師の世界は、昔は『女性はどんなに努力しても男性には勝てない』という、まるで神話のような慣習が強かったです。確かに女性は腕力・体力で男性に劣るかもしれないし、出産もしなければならないけれど、医者として本当に男性に劣っているのか?と疑問に思いました。それならば『女性の身体を知ろう、本当に劣っているのか調べよう』と思ったのがきっかけで、産婦人科の道を選びました。
手術で独り立ちするというのは、男性でも大変なことで、必死になってトレーニングしました。病理というのはドクターズドクター(医者の医者)と呼ばれますが、病理の細胞診の専門医の資格も取ってから産婦人科に行きました。
女性医師にとって、さまざまなトレーニングをしている時期というのは、女性の大変な時期と重なります。特に出産と子育てですね。私は運良く家族のサポートがありました。外科をやっていると、緊急手術などで子どもにしわ寄せが来てしまいます。女性医師でバリバリ働いていると、子どもが不登校だったり問題を抱えていることも少なくありません。子どもを無条件に愛してくれるのは最終的には家族だけですので、家族のサポートなくして今の私はなかったかもしれません」
開業〜女性医師がいきいきと働く場をつくりたい
桑江先生「私は産婦人科医になったころ、開業しようなんてまるで考えていなかったのですが、あるとき娘との話のなかで『お母さんのところで働けたらね』という話題になって、ふと女性の働く場ということを思い出しました。女性医師だけでなく、女性がいきいきと働ける場所を作って、雇用を生むことができればすばらしいことだと思ったのです。
私は、都立多摩総合周産期センターの立ち上げにも携わってきましたし、これまで培ったものをまだまだこれから生かしていきたい、地域に貢献していきたい、そして女性の雇用をつくりたいという思いを、開業という形で実現することができました。
開業前は周産期センターでハイリスクの患者さんを数多く診てきたので、どうやってこの患者さんを安全に出産させられるかという問題に日々直面していました。しかし、今では、クリニックに従事することで、シンプルに命の誕生を喜んで迎えるという気持ちに改めて気づくことができ、お産の見方も変わってきたと思います」
クリニックの特徴、自慢できることは
桑江先生「産科においては、『女性が女性を支える』ということを意識しています。助産師というのは日本特有の制度なのですが、助産師さんに力を存分に発揮してもらえるように、助産師外来に力を入れています。医師は医療的観点からの目線が多くなるのですが、医師とは違った目線、例えば生活面などで患者さんと向き合って、患者さんからも身近な存在として助産師さんが支えてくれています。
施設としては、陣痛室としてLDRを3室用意しています。病室は全室シャワー付きの個室にして、出産後にゆっくりしてもらえるようにしています。また、頑張って出産したあとには褒めてあげたいと思い、食事にも力を入れています。地元八王子で採れた新鮮な野菜をたくさん使ったり、おっぱいに良いようにバターなどを控えたり、お祝い膳は豪華でうれしくなるような料理を出しています。おかげさまで患者さんからは大変好評ですよ。
婦人科においては、長年培った経験と技術があるので、手術などどこにも負けない自信があります。また、女医だからこそ、患者さんが話しやすい、話せることもあると思います。最近でも、15歳とか若いお子さんが、女医ということでわざわざ診察にいらしたこともありました」
子育ては、ひとりでするものではないし、ひとりでできるものでもない
桑江先生「最近は核家族化も進み、女性の社会進出も少しずつ進んでいるなかで、結婚して妊娠し、突然母親になったときに、支えてあげる周囲の力が希薄な世の中だと思います。だから、『産んだあと、どうしたら良いのかわかりません』という女性が多いです。
昔は親戚付き合いがあったり、親と同居していたり、地域で子どもを見守ってくれていましたけど、今は親戚はおろか近所付き合いもないので、助けてもらえる人が周りにいません。すると、どうしたらよいかわからないまま、たったひとりで子どもと向き合わなくてはならなくなって、しまいには育児放棄になったり虐待になったりしてしまうこともあります。
子育ては、ひとりでするものではないし、ひとりでできるものでもないです。だから肩の力を抜いて、周りを巻き込んで良いので、助けてもらってオッケーなんです。
私たちは患者さんには常にやさしい気持ちで接していきたいと思っています。やさしい、温かみのある対応で、困ったときに頼ってもらえるように、スタッフ全員が支えていきたいと思っています」
患者さんや読者の方へのメッセージ
最後に、患者さんやベビーカレンダーの読者の方へのメッセージを桑江先生に伺いました。
桑江先生「この間、『私は帝王切開だったから、ちゃんと産めなかったんだ』と考えている女性がいると知って大変驚きました。お産というのはさまざまです。ハイリスクで周産期センターで出産する場合もあるし、クリニックで出産する人もいる。残念ながら死産という方だっています。
だから、無事に出産できたら、どんなお産であってもそれが100点満点なんです。自分のお産に対してネガティブに思うことなんてないのです。そして、生まれてきてくれた赤ちゃんには愛情をたっぷり注いであげてください。
私たちは、妊娠〜出産〜育児までを支えていきたいと思っていますので、どんなことでも気軽に相談してほしいと思っています」