助産院・ファミリーケアセンターMOM(兵庫県洲本市)産後ケア施設レポート

助産院・ファミリーケアセンターMOMの外観。見た目は民家のよう
素敵な玄関

淡路島の高速道路ではとてもきれいな海の景色を見ることができます。「洲本市民広場」には趣のある建物が立ち並び、定期的にイベントが開催されています。訪問時には「冬咲きチューリップショー」がおこなわれていました。
この洲本市民広場から少し離れた住宅が建ち並ぶ細い道の先に「助産院・ファミリーケアセンターMOM」があります。

笑顔で迎えてくださった岡垣院長に、助産師になったきっかけや助産院・ファミリーケアセンターMOM開業の経緯、特徴などを伺いました。

きっかけは中学3年のときの授業

岡垣 裕美院長

ベビーカレンダー 二階堂(以下BC)「助産師になったきっかけを教えてください」

岡垣院長「中3の授業で、助産師は生まれ出た赤ちゃんの命をお母さんよりも先に抱っこできると知り、命のバトンができる素晴らしい職業だなと。それから自分も助産師になりたいと思っていろいろ調べました」

BC「中学のときの授業がきっかけで、それからずっと想いが変わらなかったんですね」

岡垣院長「はい。私も命の授業で小・中学校に行く機会があるのですが、助産師の仕事について話をするときに、命のバトンについての話を必ずしています。私の話を聞いて、助産師になりたいという生徒さんもいて。実際、私が初めておこなった授業を聞いて助産師になった子が、今お手伝いにきてくれているんですよ」

淡路島で助産院を始めようとした理由は

BC「どうして淡路島で助産院を開こうと思ったのですか?」

岡垣院長「私は愛知県出身なのですが、夫の仕事の都合で22年前に淡路島に来ました。最初は市役所で母子保健を担当していました。淡路島には民間の産後ケア施設や一時預かり施設がなかったり市役所での活動は休みがあったりするので、お母さん方を支えるには限界があると思って。お母さんたちがしんどい思いをしているのがわかっているのに行ってあげられないのが歯痒くて、だったら自分がそういう場所を作ろうと2年前に思ったんです。ちょうどコロナ禍ということもあってより強く思いました」

BC「助産院・ファミリーケアセンターMOMはお産を取り扱っていませんが、理由はあるのですか?」

岡垣院長「淡路島の住民の9割は県立の病院で出産しています。そこには小児科もNICUもあります。妊娠・出産は病気ではないと言われるけれど、私も助産師としていろいろな経験をしてきたからこそ、お母さん方にはより安全なところで出産してほしいという想いがあります。今は出産の機会が多くても2回。そんな大切な命だからこそ、安全なところで生まれてほしいなと。出産が最大のゴールというわけではありませんし、どこで産んでも赤ちゃんに会えるわけなので。去年、助産院が1件できたのですが、そちらではお産を取り扱っています。でも競合するより困っているお母さん方の力になりたい、市役所にはないものを提供したいと思って、産後ケア施設を開くことにしました」

ママと赤ちゃんが過ごす4畳のお部屋。このほかに6畳タイプのお部屋が1つあります
多目的ルーム
エステや整体などもおこなっています
お食事もバランスがよく、とてもおいしそう!

育児でつらい人だけじゃなくてみんなが来れるような助産院

BC「助産院・ファミリーケアセンターMOMはどのようなところですか?」

岡垣院長「助産院・ファミリーケアセンターMOMは、2床しかない小さな施設です。だからこそ、実家に帰るみたいなイメージのものをつくりたかったんです。赤ちゃんが欲しいと思ったときから来ていただいて、出産後、『帰って来たよ』『楽になったよ』『また来るね』と言える実家のようなイメージです。コロナ禍でも感染対策をきちんとおこなって、できるだけ対面に拘ってきました。

今のお母さんは褒めてほしい、大きな失敗はしていないのに失敗したくないと思っている方が多いように感じます。育児に関しても自分よりもっとしんどい人がいる、2人目でもその人にとってその子は初めての子なのに、2人目なのにできない、わからないって言えない……と思ってしまっています。

また、育休を取る男性も増えてきましたが、育休だけ取られても……とお母さん方は思うらしいんです。夫は夫で何していいかわからない。そこで、「何かしようか?」「何したらいい?」「手伝おうか?」なんて言ったら、「見ればわかるでしょ」と……。しかし、自分はお金を稼いでいないという罪悪感から、こういうしんどい想いを夫にも言えないそうなんです。そんな思いが言えるような場所にしたくて。夫婦間のコミュニケーションについての相談は、現在個別で対応していますが、来年度からご主人も参加しやすいように土曜日、市の委託で夫婦間のコミュニケーションの講座を始める予定です。

産後ケア施設というと産後のお母さんと赤ちゃんというイメージがありますが、ここは『女性だったら誰でも来ていいよ』というスタンスです。思春期の子どもたちも学校では習わない生理の悩みもあると思いますし。遊びに来る感覚で性に関する話が気楽にできるような、『また来てね』と言ったら来れるような、しんどくなくても気軽に来れるような場所にできたらと思っています。

また、更年期のケアも大事だと思っています。イライラするのは、実はホルモンの影響を受けている可能性もあります。それを知らない方もいらっしゃいます。年相応に歳をとっていきたいけれどきれいに歳を重ねたい……そんな女性も来ていただけたらと思います」

コロナ禍でも対面にこだわってきたそう

これからも助産師として地域でお母さん方を支えていきたい

命の授業の様子

BC「今まで活動してきて印象に残っていることはありますか?」

岡垣院長「これまでたくさんのお母さん方の声に励まされてきました。印象に残っているのは、市役所で赤ちゃんの健診をしていたときに声をかけてきた1人のお母さんです。そのお母さんは下のお子さんが生まれて、上のお子さんを叱ってばかりで、うまくいっていなかったそうです。そんなとき私は小学2年生に命の授業をしたことがあったんですが、お母さんの娘さんもいて、私の授業を受けたあとに感想文を書くという課題があったそうなんです。その感想文には大切な命を産んでくれたことへの感謝などが綴られていて、お母さんは感想文を読んで、ものすごくうれしかったと。ありがとうと思ってくれたんだとわかって泣き出してしまったということがあったんです。

私は、自分たちの命には力があるんだよ。大好きだから命が生まれるんだよっていうことを命の授業で子どもたちに伝えているんですけど、お母さん方も子どもが生まれたときのことや育児中のことを思ったりして、こう言った形で波及していくんだということがわかって、とてもうれしかったんです。

それで、地域母子保健をとにかくやっていきたい。助産師として、病院ではなく地域でお母さん方を支えたいと思った原点とも言える出来事です」

BC「頭ごなしにこうしなさいという授業じゃなくて響く授業になっているんですね」

岡垣院長「授業では親に感謝しようとか言ってないですし、事実を伝えているだけなんですけどね。

少子化対策にしても、お金ばらまくだけじゃなんでダメなんだろうって、仲間の助産師と話していたんです。子育ては、つらい、しんどい、お金かかるじゃなくて、赤ちゃんかわいいよね、育児って楽しいねということをもっともっと伝えたら、産みたくなるんじゃないかって。つらいこともあるけどそれを上回る楽しさを伝えられたらと思っています。

スタッフも現在臨床心理士を探しています。産後うつの問題もありますし、助産師と臨床心理士という別の職種の視点でみることで、問題があった場合に早く医療に繋げられるようにできればと思っています」

岡垣院長からのメッセージ

BC「最後に、患者さんやベビーカレンダーの読者の方へのメッセージをお願いします」

岡垣院長「相談に来てね、なんでも言ってきてねと言っても、こんなの相談することじゃないってなかなか来てくれないのが実情です。でも実際に来院して、お話をしていると悩みや困っていることなどがどんどん出てきます。

ここに来たら私がみなさんを褒めますから
みんな頑張っている
疲れたらおいで
自分を褒めてあげて
それができなくなったらおいで

助産院・ファミリーケアセンターMOMは相談に来る場所ではなく、遊びに来る場所。そう言う場所作りをしていきたいと思っています」

岡垣院長とスタッフのみなさん

助産師さんは赤ちゃんを取り上げる人と思われがちですが、実際は病院や地域、学校などさまざまな場所で女性の一生を支える仕事をしています。岡垣院長もそんな助産師さんの1人。助産院・ファミリーケアセンターMOMでは、産後ケアのほかにも小学生のお子さんも参加できる味噌作りなど、いろいろ楽しいイベントを開催しているとのこと。ちょっと遊びに行くような気持ちで、助産院・ファミリーケアセンターMOMへ行ってみてはいかがでしょうか? 岡垣院長をはじめ、笑顔の素敵なスタッフさんが迎えてくれますよ。

ベビーカレンダー編集部


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