沈黙が続いた車内
彼は「いつものことだから少し休めば大丈夫だよ」と言って、すぐに横になりました。彼の言う通り、数分ほどで動悸は治まったようです。ただ、体のだるさは残っているようだったので、これ以上負担をかけるわけにはいかないと思い、私は帰宅することにしました。
しかし、すでにバスは終わっている時間です。どうしようか迷っていると、彼はすぐに母親を呼びました。彼の親に会うのは、その日が初めてです。私は突然の展開に戸惑いながらも、送ってもらえることに感謝し、車に乗り込みました。
けれど車内では、ほとんど会話がありません。気まずい沈黙が続き、彼の母親もどこか不機嫌そうに見えました。初対面で夜遅くに送ってもらうことになってしまったため、申し訳なさもあり、私はただ小さくなって座っていることしかできませんでした。
ふたりの会話が聞こえてきて…
10分ほど車を走らせ、無言のまま私の家に到着しました。お礼を言って車を降りたものの、ドアを閉めたあと、私は「彼の母親は私のことをあまりよく思っていないのかもしれない……」と、少しさみしい気持ちになっていました。
それから数カ月後、私は再び彼の実家を訪れました。彼の部屋で待っていると、彼は普段と変わらない様子で「飲み物を取ってくるね」と言い、キッチンへ向かいます。
彼の部屋はキッチンに近く、彼と母親の話し声が自然と耳に入ってきました。最初は気にしないようにしていたのですが、その内容に、私は思わず固まってしまいました。
彼の母親が、私の服装や振る舞いについて悪口を言っていたのです。
母親の言葉に、彼の反応は?
彼の母親には、初対面のときからどこか距離を感じていましたし、もしかしたら、私にも直すべきところがあったのかもしれません。
それでも、自分のいないところで服装や振る舞いについて言われているとわかり、正直ショックでした。けれど、それ以上に驚いたのは、そのあとの彼の言葉です。
「まあね、母さんの言うとおりだよ。服装とかも、俺から言ってみるから」
彼は母親の言葉を否定することなく、むしろ同意していたのです。
信じられない気持ちでいると、しばらくして彼が部屋に戻ってきました。必死に気持ちを落ち着かせながら、今の会話が聞こえてしまったことを伝えた私。すると彼は慌てる様子もなく、「だって母さんの言うことだもん。母さんが間違ってるとは思わない」と言いました。
母親を大切に思う気持ちは理解できます。けれど、私の意見や気持ちを確かめる前に、母親の意見をそのまま受け入れていることが、とてもつらく感じられました。
その後も彼は何かを決めるたび、母親の意見を優先することが多くなりました。楽しい時間もありましたが、将来を考えると、私の気持ちや考えはどこまで大切にしてもらえるのだろうと不安になっていき、結局彼とはお別れしました。
家族を大切にすることは、決して悪いことではありません。ただ、家族を大切にする気持ちと同じくらい、恋人と向き合う姿勢も大切にすべきだと、私自身も学びになった出来事でした。
著者:榊原愛七/30代女性・1児の母。看護師・カウンセラー兼、恋愛エピソードを執筆するライター。
イラスト:にしこ
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2025年8月)
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