エリート気取りのパパ友の誤算
子ども会のバーベキューに、私と夫、当時小学3年生の長男、3歳の次男と参加したときの話です。バーベキューの参加家族は10組ほど。あまり関わりのなかった家族とも交流できるいい機会でした。ところが、バーベキューを楽しんでいると、ビールを片手に、大手企業の課長を務めるAさんが突然私たちに近づき、「この前、出勤前のあなたを見かけましたよ。随分と地味なスーツ姿で、一体どこにお勤めですか? 失礼ですが、ただの平社員にしか見えなくて」と周囲に聞こえるような大声で言ってきました。
Aさん一家とはあいさつを交わす程度の付き合いでしたが、彼は「大手企業の課長」という肩書きをひけらかし、周囲を見下すことで有名な人物でした。とはいえ、実際にこんな風に絡まれたのは初めてで、あまりの失礼さに私は絶句しましたが、夫は、「まぁ家族を養うのに必死ですから。でも、どんな立場であれ、一生懸命に働く仕事に貴賎はありませんよ」と、穏やかな笑顔で受け流していました。夫の大人な対応に感心しつつも、私はAさんの無礼極まりない態度に激しい悔しさを覚えていました。
すると、隣にいたAさんの奥さんも「奥さんはパート? うちみたいに責任ある仕事を任されるような夫じゃないと、将来が不安よね?」と言うのです。これには私も我慢の限界で、言い返そうと一歩踏み出しかけましたが、子どもたちの手前、騒ぎを起こしてはいけないと必死に怒りをグッと堪えました。
すると調子に乗ったAさんは、遊んでいた周囲の子どもたちを適当に呼び集め、「いいかい? 君たちも立派な大人になりたいなら、私のように責任ある役職に就かないといけないよ。組織に指示されるだけのこちらの方みたいになっちゃダメだぞ」と夫をバカにする発言を続けました。周囲の大人たちには、険悪な空気が流れます。このとき、長男と同い年のAさんの息子くんが、何か言おうとしていました。
そこへ、地域でも有名な企業の役員でもあるパパ友Bさん一家が到着。Aさんは強い上昇志向から、相手のステータスで態度を変える人物でした。地元の有力企業役員であるBさんに媚を売り、今後の出世やビジネスに利用しようという下心があったのでしょう。子どもを放ってすぐさま駆け寄り、「Bさん、今日ももしかしてお仕事でしたか? 僕たちのような責任ある立場の人間は、休日も休みではありませんね」と、ご機嫌伺い。ところが、Bさんはそれを「ははっ」と軽くあしらって、私の夫を見つけるなりパッと顔が明るくなったのです。
「おぉ! お前も来てたのか! 久しぶりだな!」と言いながら夫の元へやってきます。そして冗談めかして「あ、失礼、常務! 学生時代からお前にはかなわないと思ってたが、少し会わない間にまさか業界で最注目の、有名グループ企業の常務取締役にまで上りつめるとはな! さすがだよ!」と言うと、夫は「からかうなよ」と親しげな会話が始まりました。Bさんはそんな夫の肩を叩きながら、「こいつは昔から、相手が誰であっても絶対に態度を変えないし、どんな泥臭い仕事も誠実にこなす奴でね。だから上からも下からも信頼されて、異例の若さで抜擢されたってわけです」と、周囲の人たちに自慢するかのように、しみじみと話してくれました。
周囲のパパママたちもBさんの言葉を聞いて、「たしかに○○くんのパパ、いつも穏やかでスマートだよね」と話しだし、夫は一気に注目の的に。そんななか驚いた顔で「え、彼は平社員じゃないんですか?」と言うAさんに、Bさんは呆れた顔で「何言ってるんです? こいつは俺の大親友で、あの有名企業の常務ですよ」と告げます。顔色を失ったAさんは焦った様子で息子くんを引き寄せ「○○くん(長男)のパパって実はすごい人なんだよ」と必死に媚びを売り始めました。
すると「そーだよ? ○○くん(息子)と同じクラスだし、知ってる。この前○○くんちで遊んだとき、ネットにおじちゃんが載ってるの○○くんが見せてくれて、有名な社長さんたちと並んでインタビューを受けたって言ってたんだ。絶対パパよりすごい人って思ってたよ」とまさかの追い打ち。見下していた相手を、息子に「パパよりすごい」と言われ、もうAさんは黙るしかありませんでした。
その後、周囲の冷ややかな視線や、呆れたようにヒソヒソと囁き合う声に耐えかねたのか、居場所を失ったAさん夫婦は子どもを連れて逃げるように会場をあとにしました。周囲の大人たちからは「自業自得だよね」「うちもいつも見下されてて嫌だったの」などの声が漏れ、会場には再び和やかな空気が戻りました。
肩書きを盾にして、自分を大きく見せていたAさんの他人を見下す行為は、かえって自分の器の小ささを晒すことになってしまったと思います。一方で、夫は大きな肩書きを持っていながらそれを一切ひけらかさず、平社員だと誤解されても穏やかに笑っていました。結局、周囲からの本当の信頼や敬意は、目に見える地位や役職ではなく、相手が誰であっても変えない「誠実な姿勢」にこそ集まるのだと、夫の後ろ姿を見て改めて実感した出来事でした。
著者:池田いおり/30代・ライター。11歳と6歳の活発な男の子を育てるママ。仕事と子育てに奮闘しつつも、自分の時間を何とか確保してリフレッシュしている。
作画:Pappayappa
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年1月)