「おいしいよ」が口ぐせになっていた僕
結婚して間もないころのことです。妻は料理が好きで、毎日仕事から帰る僕のために食事を作ってくれていました。
妻から、「今日の味付けどう?」と聞かれるたび、僕は決まって笑顔でこう答えていました。
「お、おいしいよ!」
妻の料理は、本当においしいことがほとんどです。けれど、味付けが少し濃いと感じたり、苦手な食材が入っていたりする日もありました。それでも、「せっかく作ってくれたのに」と思うと、本音は言えませんでした。
料理だけではありません。疲れている日も「大丈夫」、頼み事をされても「いいよ」。相手を思って選んだ言葉でしたが、気づけば本音を飲み込むことが当たり前になっていました。
小さなズレが積み重なって…
ある日、仕事で疲れて帰宅した僕に、妻が言いました。
「このあと、荷物を一緒に片付けてくれる?」
本当は少し休みたかったのですが、いつものように反射的に「いいよ」と返事をしました。
ところが、作業をしている途中で思わずため息をついてしまったのです。すると妻が心配そうな顔で「無理してた?」と聞きました。
そのひと言に、僕は隠し続けてきた気持ちを少しだけ話してみました。
「ごめん。本当は少し休んでから手伝いたかったんだ」
さらに、「料理もいつも本当においしいけど、『今日は少し濃いかな』とか、『この食材はあまり得意じゃないな』って思う日もあるんだ」と打ち明けました。正直、気まずい空気になると思っていたのですが……。
妻から返ってきた意外なひと言
妻は少し驚いたあと、笑いながらこう言ったのです。
「やっぱりそうだったんだ!」
実は妻も、「毎回『おいしい』って言うから、本当にそう思ってるのかな?」と少し気になっていたそうです。
「私は感想を聞きたかっただけだから、遠慮しなくてよかったのに」
その言葉を聞いて、肩の力が抜けました。
それ以来、「今日はちょっと濃いかも」「これはすごく好きな味!」と、そのとき感じたことを素直に伝えられるようになりました。
すると妻も、「今日は失敗しちゃった」「今度は違う味付けにしてみようかな」と、本音で話してくれるようになったのです。
以前より会話が増え、お互いに気をつかいすぎることも少なくなりました。もちろん、伝え方には思いやりが必要です。でも、自分の気持ちを少しだけ素直に言葉にすることで、お互いをもっと理解できることもあります。
あの日、勇気を出して本音を伝えたことが、夫婦にとって自然体で過ごせる関係への第一歩になったのだと思っています。
著者:大石浩志/40代男性・香川県在住。IT系企業に勤める会社員。本を読むことが好き。
イラスト:ののぱ
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年4月)