入院中の子を他人に任せるパパ
私は夫と共働きで、6歳の長男、4歳の長女、2歳の次男を育てています。長男は持病があり、年長になったばかりの昨年の春に約2週間、小児科病棟に入院し、私も付き添いました。病棟にはおもちゃや絵本が置かれた小さなデイルームがあるのですが、病室は共同部屋で会話にも気をつかう入院生活だったため、そこは息子が気兼ねなく遊べる貴重な場所になっていました。
入院から1週間ほどたったある日、デイルームで息子と同じくらいの年齢で点滴を付けた男の子とそのお父さんに会いました。お父さんは「少し仕事の電話をしてくる」と男の子に言いますが、男の子は不安そうです。私は「少しの間なら見ておきますよ」と声をかけ、一緒に遊んで待っていました。数分後に急いだ様子で戻ってきたお父さん。お礼を言われましたが、私は「お互いさまですから」と、笑顔で返しました。
しかし翌日、再び会ったお父さんは、いきなり「ちょっと出るので、今日もお願いします」と頼んできたのです。当然のような言い方に違和感を覚えつつも、退院まで何度も顔を合わせると思うと気まずくなるのが嫌で、「いいですよ」と引き受けました。しかし、昨日はどこか緊張気味だった男の子は少し雰囲気に慣れたのか、点滴スタンドが揺れて今にも倒れそうになるくらい大はしゃぎ。自分の息子を見ながら、よその子の安全まで気にするのは私にとってかなりの負担でした。
やがて20分後に戻ってきたお父さんは、片手にスマホを持ったまま「どうもー」と軽い会釈だけ。手に持った画面にはゲームの画面が映っており、「ちょっと出るって、ゲームだったの?」とモヤモヤが募りました。
「次は断ろう」と思っていた次の日、男の子がひとりでデイルームに来ました。「え?」と思っていると、男の子は「いつものお母さんがいるから、ここで遊んでなさいってパパに言われた」とポツリ。「病室に帰って」とは言えず、しばらく面倒を見て、あとで看護師さんに相談しようかと考えていたとき……。男の子が突然「ママ!」と立ち上がりました。ルームに1人の女性が入ってきたのです。
「あれ? パパは?」と女性が聞くと、男の子は「たばこ吸ってくるから、ここで遊んどけって。いつものお母さんのとこに行ってこいって」と答えます。そこへ、レジ袋を持ったお父さんが戻ってきました。女性はその姿を見るやいなや、厳しい顔つきで「あなた、何考えてるの! 点滴もついてる子を放置してたばこ!? 何かあったらどうするつもり!?」とまくしたてます。すごい剣幕にお父さんは「いや、俺にも息抜きがいるじゃん……」とたじたじです。
女性は「自分のリフレッシュのためによそのママをシッター扱いするなんて、あり得ないでしょ!」と叱責し、そして私のほうを向いて、「家で下の子の面倒を見ていて、私が夫に任せてしまったばかりに……。お子さんも大変な中、家族がご迷惑をかけて大変申し訳ありませんでした……」とていねいに謝罪してくれたのです。私は「いえ、だ、大丈夫です……」と返事をしましたが、その場にいづらくなり、息子とそそくさと病室へ。デイルームのほうからは、お父さんが説教されている声が延々と聞こえていました。
子どもの入院中は、誰もが気を張って過ごしていると思います。そんななかでの「お互いさま」という言葉は、助けた側が使うものであり、最初から相手の善意を当てにしてラクをするための免罪符ではないと思います。自分や家族、相手の安全を守るためにも、今後は違和感を覚えた時点で、毅然と断るか、すぐに看護師さんなどのスタッフに委ねる勇気を持とうと固く心に決めた出来事でした。
著者:菅田希美/30代・会社員。発達がのんびりな6歳の長男と大人びた発言をする4歳の長女、マイペースな2歳の次男を育てるママ。仕事と家事育児に追われ発狂しそうになりながらも「まぁいいか」の精神でなんとか毎日を切り抜けている。
作画:sawako
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年2月)