わかってくれない夫
現在2歳になる娘を妊娠していたときのことです。初めての経験ということもあり、私は想像以上のつわりに苦しめられていました。水さえ飲むのがつらく、一日の大半をトイレとベッドで過ごし気持ちが滅入る毎日。「これなら食べられる」という特定の食べ物しか受け付けられず、夫にもそんなつらさを伝えていました。
そんなある日、急に「カルボナーラが食べたい」という気分に。仕事帰りの夫に「今日はカルボナーラなら食べられそうだから、レトルトのソースを買ってきて」と連絡すると「わかった、作るね」と頼もしい返信が届きます。
帰宅した夫がキッチンで調理する音を聞きながら、私は久しぶりの食事を楽しみにしていました。しかし、食卓に出されたのは「卵とじうどん」。私が困惑していると、夫は「カルボナーラなんて脂っこいもの、妊婦の体にいいわけないだろ。気を利かせてヘルシーなうどんにしたよ。カルボナーラも卵とじうどんも、どっちも卵使った麺料理。実質一緒だろ? むしろこっちのほうが正解じゃない?」と自信満々に言い放ちました。
しかし匂いを嗅いだ瞬間、私は和風だしの風味で猛烈な吐き気に襲われ、一口もつけられずに席を立ってしまいます。すると夫は「せっかく仕事で疲れて帰ってきたのに料理させて、一口も食べないってどういうことだよ! 俺のやさしさを踏みにじるのもいい加減にしろ! 妊婦だからってわがままばかり言うな!」と激怒。つわりの苦しみを理解するどころか、自分の身勝手な判断を「やさしさ」と信じて疑わない夫の無理解さに、私は心が折れました。それ以来、私は体調がどれだけ悪くても夫には頼らず、自分の食べたいものは自力で調達するようになったのです。
そしてそれから数カ月後の、つわりが落ち着いて体調が回復したころのことです。夫が飲み会から帰宅し、翌朝ひどい二日酔いになっていました。「頭が割れるように痛い……。胸やけがする……」とソファで大げさにうずくまる夫は、私に「頼むから、あっさりした鮭のお茶漬けを作ってくれ……。何か少し腹に入れたらラクになる気がするんだ……」と惨めな声で懇願してきました。
私は「わかった、すぐ作るね」と夫に伝えます。その日は朝から義母が遊びに来ていたので、私は昼食も兼ねて3人分の食事を用意しました。数分後「できたよ」と声をかけて、私が出したのはチーズたっぷりの「鮭ドリア」です。さらに、義母が「私も一品作ったのよ」と、ニンニクの匂いが充満するスタミナ満点の「レバニラ炒め」を目の前に突きつけました。
夫は「二日酔いでドリアなんて食べられるわけないだろ! 母さんもそう思うだろ?」と声を荒らげて義母に同意を求めますが、私は冷静に「えっ、鮭とご飯を使ってるし、お茶漬けと中身はほとんど一緒でしょ? それに、お茶漬けよりドリアのほうが食べ応えもあるし、早く元気になりそうでしょ? 妻のやさしさを無駄にする気?」とひと言。そして義母も「二日酔いの体にレバーとニンニクで活力を入れてあげるお母さんの『やさしさ』じゃない。わざわざ作ってきたのに『食べられない』なんてわがままを言うんじゃないわよ」と言い放ちます。
そして「……ところであなた、つわりで苦しむ奥さんにこの前何をしたか、覚えているかしら?」と話します。実は義母にもカルボナーラの一件を伝えており、自身もひどいつわりと義父の無理解に苦しんだ経験があるという義母は「今日はこってりしたおかずを持って、息子にお灸をすえに行くわ」と、私と約束していたのでした。
自分が妊娠中の私に浴びせた「わがまま」「感謝しろ」「むしろこっちが正解」という心ない言葉が、寸分違わず巨大なブーメランとなって自分に突き刺さったことを悟った夫。自分の言動の身勝手さと、二日酔いの胃に押し寄せる吐き気の中で、夫は完全に顔を引きつらせて絶句しました。そしてしばらく黙り込んだあとに「あのときは本当にごめん。今なら、あのときの君がどれだけつらかったかよくわかるよ」と深く反省して謝罪してくれました。
義母は最後に「私も妊娠していたとき、父さんの理解がなくて大変だったの。匂いづわりだって言ってるのに、にんにく増し増しの餃子を『これで力をつけろ』って私に差し出してきて、泣きながら怒ったわ。今でも根に持っているくらい、妊娠中や産後の恨みって続くのよ」と夫に話し、夫は「挽回できるように頑張ります」とつぶやいたのでした。
それ以来、夫は体調不良の私に勝手な親切を押しつけることを完全にやめ、私の要望を第一に聞くように。義母の言う通り、つわり中に限らず、体調不良などのつらいときの恨みは、いつまでも深く残るものだと私は思います。相手の要望を自分の判断で置き換えず、思いやりを持って向き合うことの大切さを、夫婦で改めて考えるきっかけになった出来事でした。
著者:天野朋美/20代・ライター。おしゃべりが大好きな2歳のひとり娘を育てるママ。ライターをしながら平日はワンオペ育児中。映画鑑賞とカフェ巡りで、日々のストレスを発散している。
作画:ryo
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年2月)