ママ友が、病院をカフェ代わりに…
娘が3歳になったばかりのころ、習い事で知り合ったママ友から数カ月ぶりに「久しぶりに会ってお茶しようよ。落ち着ける良い場所があるの!」と連絡が届き、再会することにしました。指定された場所は、地域を代表する大きな総合病院。「調子が悪くて、通院でもしているのかしら」と困惑しながらロビーに入ると、ママ友が奥に設けられた休憩室から手を振っています。私は娘の手を引き急いで向かいました。
休憩室でママ友は、唯一のソファを占領し、自宅のようにくつろいでいます。「元気そうだね。でも病院って、どこか具合が悪いの?」と私が尋ねると、「嫌ねえ、違うわよ。ここ、混むことないし、お水もタダで飲み放題。絵本やおままごとセットもあって最高でしょ。だからよく利用してるのよ!」と、ママ友は得意げに話します。その手には、持参したティーバッグを入れた備え付けの紙コップが握られていました。
私が「え? 大丈夫なの? ここは患者さんやその付き添いの人が使うところじゃないの? 感染症も怖いし、元気な子どもを遊ばせる場所じゃないよ」と言うと、彼女は「神経質すぎ! カフェに行ったら500円はかかるけど、ここならタダじゃない。浮いたお金でいずれ新作のコスメが買えるのよ。カフェばっかり使って無駄遣いしてたら、貯金なんてできないって~」と鼻で笑ったのです。彼女の3歳の息子も、土足でソファに上がり、併設のキッズスペースから持ってきたであろうおままごとセットを乱暴に振り回しています。周囲のテーブルには患者さんや、顔色の悪い高齢者が静かに座っているのに、彼女はまったくお構いなし。私は落ち着かず、居心地の悪さを感じました。
そのときでした。私たちの後ろのテーブルに座っていた男性が、「ここ、何をする場所かわかっていますか?」と、突然背後から話しかけてきました。ママ友が「な、何なんですか」と怪訝な顔をすると、男性は「私はここの医師です」と返答。どうやら、後ろのテーブルで患者家族と話をしていたようです。ママ友は少したじろいだものの、すぐに「ただ休憩してるだけですけど! 悪いことでもしました?」と逆ギレします。しかし医師は「後ろで話し声が聞こえましたよ。ここは、あなたの新作コスメを買うために提供しているスペースではありません!」と一喝したあと、「患者さんと付き添い家族のための場所なので、今すぐ立ち去ってください」と毅然と伝えました。
ただ事ではない様子に、周囲の看護師さんや患者さんたちも集まってきます。さらに、遠巻きに、冷ややかな視線がこちらに向けられていました。私はいたたまれなくなり、「すみません! すぐ出ます」と小声で謝ります。ママ友が顔を真っ赤にして「もう二度と来ないわよ!」と捨て台詞を吐くと、医師は「ええ、本来の目的以外では二度と来ないでください」ときっぱり。彼女は娘の手を引き、不機嫌な顔をしながら立ち去ってしまいました。
そして私は、嵐のように去ったママ友の代わりに、集まってきた警備員さんや看護師さんたちから「お連れ様ですよね?」「どういうおつもりで利用されていたのですか」と不審者を見るような厳しい目で問いただされてしまったのです。周囲からの冷ややかな視線を一身に浴び、恐怖で泣きそうになる娘を抱きしめながら、「もっと強く止めるべきだった」と申し訳なさでいっぱいになり、私は言葉に詰まってしまいました。
そのとき、先ほど一喝してくれた医師が「彼女は悪くありませんよ。後ろで話を聞いていましたが、このお母さんは『ここは患者さんのための場所だし感染症も怖いからやめよう』と、あの人を必死に注意していましたから」と助け舟を出してくれたのです。私が悪質利用者ではなく、ただ巻き込まれただけの被害者であることがその場で証明されました。
警備員や看護師さんたちも「誤解してしまい大変申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げてくれましたが、大勢の前で詰問されたショックと恥ずかしさ、そして何より幼い娘に怖い思いをさせてしまったという心のダメージは大きく、泣きそうになりながら病院をあとにしました。
もちろんそのママ友とは以降会っていませんし、私にとっては、とんだとばっちりでした。節約も大切かもしれませんが、場所をわきまえた行動や周囲への配慮はそれ以上に欠かせないことだと思います。
これからは自分の感覚を信じて、間違っていると感じる行動をする人、価値観やマナー感覚が大きくズレている人に流されることなく、しっかり境界線を引いて付き合うことを忘れずにいようと思います。
著者:松原櫻子/40代・ライター。3歳の娘を育てる母。イヤイヤの地雷を踏まないように、日々忍者のごとくそろりそろりと歩いている。
作画:Pappayappa
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年3月)