息子を神輿に乗せたい義母と夫
地元の秋祭りが近づいたころ、義母が「2歳になった記念に、神輿に乗せましょう!」と言い始めました。しかし息子はイヤイヤ期の真っ最中で、大きな音や慣れない場所にはかなり敏感です。
義母は「子ども用の神輿だし、大人が両脇でしっかり抱えて支えるから絶対に安全よ」と主張し、夫も「俺も2歳で乗ったんだから平気だって! 男なら乗ったら絶対喜ぶ!」と完全に義母に同調していました。
私は「安全面の問題ではなく、無理に乗せたら絶対にトラウマになります。お祭りも嫌いになるし、2人への信頼もなくなるかもしれないですよ!?」と必死に反対しました。しかし、義母と夫は私の言葉を無視し、お菓子やおもちゃで息子の気を引きながら誘導。「神輿に乗ったらこれあげるよ! かっこいいぞ~」と、何もわかっていない息子に「うん」と言わせ、「本人がするって言ってるじゃない!」と一気に強行突破されてしまったのです。
しかしお祭り当日、いざ神輿に乗せられると息子は見たこともないような恐怖の形相で大泣き。夫と義母がガッチリと体をホールドして落下の危険はない状態でしたが、体に響く太鼓の音と威勢の良い掛け声の中、息子はパニック状態でした。それなのに2人は「ほら前向いて!」「泣いても降ろさないわよ!」と、お祭りの異様なテンションからか理不尽に怒鳴る始末。
私は義母に頼まれて動画を撮っていましたが、それ以上は息子が気の毒で見ていられず、「いい加減にしてください! 降ろします!」と割って入り、結局ものの数分で降ろすことになりました。私は息子を抱きかかえてなだめましたが、義母と夫は「も~。せっかくの機会なのに」「今日はたまたま機嫌が悪かったな」と、まったく反省する様子がありませんでした。
それから数日後、義母が「お祭りの法被を着て、記念写真だけでも撮りましょう」と法被を持参して遊びに来ました。「それいいね!」と夫もノリノリで自分の分の法被を羽織り、2人で満面の笑みを浮かべて息子に近づきました。
ところが、その姿を見た瞬間、息子は顔を真っ赤にしてパニックに陥り、私の背中に隠れ「イヤだ!! オニ! ばぁばとパパ、こわい!! あっちいって!!」と絶叫したのです。
突然息子に拒絶され、義母と夫は「え? オニ? どういうこと?」と困惑しながら青ざめます。特に夫は、祭りのあとの数日は普通に一緒に過ごしていたのに、法被を着て近づいた途端に大泣きされ、何が何だかわからない様子。「法被のせいじゃない?」と私が冷たく言うと、夫は「え、法被がそんなに怖いのか……?」と、さらに困惑。神輿ならまだしも、ただの布である法被を見て「鬼」とまで言って怯える息子の姿に、2人とも「どういうこと?」と戸惑っていました。
そこで私は、当日スマホで撮影していた神輿の動画を無言で2人に見せました。そこには、泣き叫んで暴れる息子を神輿から落とさないよう、両脇から渾身の力で押さえつける、法被を着た義母と夫の姿が映っていました。2人は周りの和やかなお祭りムードから完全に浮いており、「ほら前向いて!」「泣いても降ろさないわよ! まったく、これくらいで泣かないの! あなたのパパは笑って乗ってたわよ!」と異様なテンションで息子を怒鳴りつけていました。必死になるあまり眉間にしわを寄せ、目を血走らせた2人の顔は、客観的に見ればまさに「鬼の形相」そのものだったのです。
「……おわかりですか? 息子が強い恐怖を感じるようになったのは、太鼓の音や神輿だけのせいじゃないんです」「『泣いても降ろさない』『これくらいで泣かないの』って、2歳の子に言う言葉ですか? 息子が怯えているのは、逃げたいのに無理やり押さえつけてきた、このときの『お義母さんとあなた』ですよ。法被を見ると思い出すんでしょうね」と私は動画を指さしながら、2人に冷たく告げました。
さらに私は夫に向き直り、「『俺も乗ったから』って自分の思い出を押し付けて、まだ言葉があまりわからない息子を丸め込んでまで強行した結果がこれよ。父親として息子の顔を一度でもちゃんと見てあげていたの?」と言いました。自分たちの狂気じみた姿と、それが息子にどれほどの恐怖を与えていたかを突きつけられた2人は、さーっと血の気が引き言葉を失っていました。その場で息子に何度も謝罪していましたが、それからしばらくは避けられる日々が続き、息子を深く傷つける結果となってしまいました。
このままではいけないとさすがに深く反省した2人は、息子の恐怖心を和らげるため、嫌がることは絶対にせず、息子のペースに合わせて好きなおもちゃで一緒に遊ぶなど、寄り添うケアを根気強く続けてくれました。その甲斐あって息子の恐怖心もすっかり消え去ったようで、今では元の通り、2人に笑顔で甘える日常を取り戻しています。結果、次の年のお祭りには笑顔で参加することができました。もちろん、あのときのように無理やり神輿に乗せることはありませんでしたし、あの出来事以来、身勝手な価値観を押し付けてくることは一切なくなりました。
今回のことは、私自身も息子の「うん」という言葉とその場の雰囲気に流され、神輿に乗せるのを止めきれなかったことを深く反省しています。今回の出来事で、義家族への遠慮やその場の空気を読むこと以上に、母親としてわが子の悲鳴を受け止め守り抜く覚悟が必要なのだと痛感しました。今後はどんな状況であれ、息子が嫌がっていたり不安を感じていたりするとき、私が一番の味方になってしっかりと守っていこうと心に決めるきっかけとなった出来事でした。
◇ ◇ ◇
お祭りや行事に参加させたいという気持ちは、多くの親や祖父母が持つ自然な思いかもしれませんね。しかし、子どもが泣いて嫌がっているにもかかわらず、無理やり参加させ続けることは、子どもに強い恐怖心を残してしまうこともあります。今回のように、法被を見るだけでパニックになるほどの恐怖が刻まれてしまうこともあるのです。
子どもが泣いて嫌がるのは、「わがまま」ではなく「助けて」というSOSかもしれません。大人の思い出や価値観を押しつけるために、そのサインを無視して押さえつけることは、場合によっては心理的虐待にあたることも。子どもの気持ちに寄り添い、嫌がっているときは無理強いしないことが、子どもの心を守るうえでとても大切なことですね。
著者:遠山奈津子/30代・会社員。お出かけが大好きな3歳のひとり息子を育てるママ。休日は公園巡りで息子のエネルギーを発散している。
作画:Pappayappa
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年4月)