風邪を引きやすい冬を越えて、ほっと一息つく間もなく流行し始めるのがヘルパンギーナという感染症です。ヘルパンギーナは脱水を起こしやすいので注意が必要です。ここでは、ヘルパンギーナの症状や原因、治療法などについて小児科医が解説します。
ヘルパンギーナとは
プール熱(咽頭結膜熱)、手足口病と並ぶ、夏風邪の代表となる感染症で、毎年5月ごろから増加し始め、7月ごろにかけてピークとなり、9~10月にかけてほとんど見られなくなるという流行時期の特徴があります。
5歳以下の乳幼児が患者数の9割(※1)を占めているため、保育所や幼稚園で流行しやすい病気と言えます。特に1歳代が多く、年齢が上がるとともに患者数は減っていきます。0歳でかかる割合は5歳代とほぼ同じくらいとされています。
ヘルパンギーナの原因と症状
主にコクサッキーA群ウイルスという病原体の感染によって起こる病気です。症状としては、主に下記のようなものがあります。
■発熱
突然、38~40℃の高熱で発症し、1~3日間持続します。
■のどの腫れ・痛み
発熱後、のどが真っ赤に腫れ、のどの痛みが出てきます。
■口腔粘膜にできる潰瘍と小さな水疱
口腔粘膜に直径1~2mmの水疱や、5mmほどの紅暈で囲まれた小水疱が出現します。この水疱は、そのうち破れて潰瘍となり、痛みが出てくるようになります。なにか物を食べたり、飲んだりすることで、口の中の痛みがひどくなるため、食事や水分摂取が難しい場合があります。初夏から真夏にかけて流行する感染症ですので、水分不足によって脱水を起こす危険性があります。
ヘルパンギーナの感染経路や潜伏期間
潜伏期間は2~4日となっています。感染経路は、以下の3つが挙げられます。
■飛沫感染
感染している人の口腔内の水疱がつぶれて咳やくしゃみ、会話などで放出された細かい唾液などを吸い込むことで感染します。
■経口感染
ウイルスが、手指を介して口に入ることで感染します。
■接触感染
感染している人の鼻水や唾液がついたおもちゃやタオルを共有したり、握手などの皮膚の接触によってウイルスが付着し感染します。
ヘルパンギーナの治療法と予防方法
ヘルパンギーナのウイルスに直接効く薬はないため、対症療法となりますが、基本的には自然によくなります。
対症方法のポイントとしては口の中の痛みによって水分摂取が難しい場合があるので、脱水を起こさせないことです。そのため、乳幼児用の経口補水液など、飲みやすく、吸収の早い飲み物をこまめに与えるようにしましょう。水分を嫌がる場合は、氷にしたり、水分を多く含むゼリーなどを与えても良いです。また、部屋の温度が高いと、発汗によって脱水が促進されてしまうため、室温にも注意しましょう。
ヘルパンギーナの予防方法としては、手洗い・うがいをしっかりすることと、免疫力を落とさないことです。ヘルパンギーナの感染経路は、飛沫感染・経口感染・接触感染と、集団生活をおこなう場所で感染してしまいます。そのため、帰宅後の手洗い・うがいをしっかりとおこない、栄養のある食事を摂り、早寝早起きの生活習慣を続けることが、ヘルパンギーナに限らず感染症の予防に繋がります。
また、ヘルパンギーナは症状が治まったあとも、長期にわたって便にウイルスが排泄されることがあるため、おむつ替えやトイレのあとには手洗いをしっかりとおこないましょう。
外出はいつからできるのか
ヘルパンギーナの症状が落ち着くまでの目安は7日間ほどとなります。症状が落ち着けば、外出や登校・登園は問題ありません。
しかし、気をつけなければいけないのが、ほかの人への感染です。ヘルパンギーナは発熱している間が最も感染力が強いのですが、回復後も2~4週間と長期間にわたって、便からウイルスが排泄されることがあるため、ほかの人に感染させないためにトイレ後にはしっかり手を洗うことが重要です。
まとめ
ヘルパンギーナは乳幼児の夏風邪の代表で、高熱と口内の水疱が特徴です。基本的には自然によくなりますが、高熱が出やすく、口腔内の水疱による痛みで水分がとりにくくなり、季節的にも暑い時期のため、脱水には十分注意が必要となります。水分摂取はこまめにおこない、部屋の温度にも注意するようにしましょう。
愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て、現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医。
※1 参考:国立感染症研究所「ヘルパンギーナとは」〈 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/herpangina/392-encyclopedia/515-herpangina.html 〉