信号待ちで感じた、ただならぬ視線
その日は、0歳のころから通っている幼児教室のレッスン日でした。娘は3歳のときにもらった、教室の大きなロゴが入った原色のリュックを背負い、楽しそうに歩いています。
信号が赤になり、交差点で立ち止まったときです。別方向から歩いてきた70代くらいの女性が、娘のリュックをじーっと見つめていることに気づきました。
最近は、早期教育や休日の過ごし方について厳しい意見を持つ方も少なくありません。
「休みの日くらい遊ばせてあげればいいのに」「親の勝手で連れ回して」……。
そんなお説教を覚悟して身構えた私の背後に、女性がスッと歩み寄ってきました。
予想外の言葉に、こらえていたものが…
女性は娘の顔をのぞき込むと、少し大きな声でこう言ったのです。
「あら! こんなに小さいのに、お休みの日までお勉強? 偉いわねぇ……!」
さらに、驚く私の方を真っ直ぐに見つめ、こう続けました。
「平日は保育園でしょ? お休みの日まで連れてきて、お母さんもいつもお仕事なのに……本当に偉い! あなた、ものすごく偉いわよ!」
屈託のない笑顔で、何度も「偉い、偉い」と繰り返す女性。
褒めちぎられた娘は照れくさそうに笑い、私はといえば、予想もしなかった全肯定の言葉に、思わず目頭が熱くなってしまいました。
育児と仕事に追われる中、毎日必死に頑張っても世間から見れば「親の務め」であって、やって当たり前のことばかり。誰かに「頑張っているね」と認められる機会なんて、ほとんどありません。女性の言葉は、知らず知らずのうちに張り詰めていた私の心を、一瞬で溶かしてくれました。
そういえば、今日は!
女性にお礼を言って別れ、無事にレッスンを終えた帰り道のことです。ふと娘が私の手を引いて言いました。
「ママ、お花屋さん寄る! カーネーション買うの! だって今日は、“ママの日”だから」
その言葉にハッとしました。そういえば、この日は『母の日』。
自分の忙しさに忙殺され、今日が何の日かさえ意識からこぼれ落ちていました。娘は、平日に保育園の先生から聞いた話をずっと覚えていて、私に花を贈ろうと決めていたそうです。
花屋の店先で娘が一生懸命選んでくれた、1本の赤いカーネーション。
見知らぬ女性からもらった温かい言葉と、小さな手から渡された真っ赤な花。それは、仕事と育児の両立に疲れ果てていた私にとって、それまでの疲れが一気に吹き飛ぶような、最高のご褒美になりました。
私もいつかあの女性のような年齢になったとき、街で見かけた頑張るママたちに、迷わず「あなたは素晴らしいよ」と声をかけられる、そんな人になりたい。カーネーションを花瓶に生けながら、私は心からそう思いました。
著者:林 ゆり/30代女性。2020年生まれの男の子と2021年生まれの女の子の2児のママ。趣味は映画鑑賞。
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2025年8月)
※AI生成画像を使用しています