ご出産を控えた妊婦さんとご家族へ
新しい家族をお迎えになるにあたり、どのようなお気持ちでしょうか。
「早く赤ちゃんに会いたい」という前向きなお気持ちの半面、「元気に生まれてくれるかな」というちょっぴり不安なお気持ちもあるかもしれません。
みなさんは妊婦健診を受診し、母親学級や両親学級にも参加して、出産や育児に備えていらっしゃいます。バースプランを立てている方もいるでしょう。
しかし、出産では「始まってみないと分からない」という現実もあり、お産の途中で母子の安全のためにお腹を切って赤ちゃんを急いで取り出すことがあります。これは緊急帝王切開と呼ばれ、日本では10人に1人※に相当します。
でも、怖がることはありません。帝王切開が必要となる理由は様々ですが、もしも帝王切開が必要になったら、あなたと赤ちゃんにどのようなことが起こるのか、あなたとご家族がすべきこと・できることは何かをイメージしておくことで、安全で満足のいく出産になります。
このページの内容は、これまでに1482人の妊婦さんに活用いただき、わかりやすいと好評です。また、もし実際に緊急帝王切開となった場合、このページの内容による教育を受けたグループは、通常の教育を受けたグループよりも、産後5日・1か月の時点で産後うつになるリスクが有意に低いということが分かりました(妊娠後期の介入群624人のうち実際に緊急帝王切開分娩した27人と対照群29人の比較結果)。お産の緊急事態に備えて、あなたとあなたを支えてくださるご家族の力が最大限に発揮できるように、このページの内容がお役に立てれば幸いです。
※ 厚労省「平成29年(2017年)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」より
1. 帝王切開とは?
帝王切開とはお母さんか赤ちゃんに何らかの問題が生じて、経腟分娩が難しいと判断される場合に、麻酔をして手術でお母さんのお腹と子宮を切開して赤ちゃんを出産する方法です。
※ 厚労省「平成29年(2017年)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」より
帝王切開には、予定(選択的)帝王切開と緊急帝王切開の2種類があります。緊急帝王切開の場合、お母さんと赤ちゃんのために一 刻を争って処置が行われることもあります。
▼ 予定帝王切開
妊娠の経過において経腟分娩が難しいと予測され、あらかじめ手術日を決めて実施される手術です。通常、37〜38週頃に手術が行われます。
おもな理由として、以下があります。
- 骨盤位(逆子)
- 多胎妊娠(双子・三つ子)
- 前置胎盤(胎盤が子宮の出口をふさいでいる)
- 前回の出産が帝王切開だった
▼ 緊急帝王切開
母子が危険な状態となり、急いで赤ちゃんを取り出さなければならない、または急いで分娩を終了して、お母さんの安全を確保しなければならない場合に実施される手術です。
分娩が進まず、経腟分娩を期待できない場合にも行われます。
2. どんなときに緊急帝王切開となるの?
緊急帝王切開が必要な理由により、手術の緊急度も違ってきます。
緊急帝王切開は誰にでも起こりえます。
妊娠経過が順調な場合でも、「急に帝王切開になることもある」と 頭に入れておくことで、いざという時、あなたなりに対応できます。
お母さん側の理由 | |
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切迫子宮破裂 (せっぱくしきゅうはれつ) |
子宮が破裂する徴候がみられる(前回帝王切開で、経腟分娩に挑戦している場合※)。 ※ これを既往帝王切開経腟分娩と言い、成功して経腟分娩できることをVBAC(ブイバック)と言います |
常位胎盤早期剥離 (じょういたいばんそうきはくり) |
赤ちゃんが生まれる前に胎盤がはがれる。胎盤がはがれている程度が大きいほど、子宮内の出血が多くなる。 |
重症妊娠高血圧症候群 (妊娠中毒症) |
妊娠がきっかけで重度の高血圧になった。分娩時のストレスや産痛で、血圧がさらに高くなることがある。 |
遷延(せんえん)分娩・分娩停止 | 何らかの理由により分娩が長引いたり、分娩が進行しない。 |
子宮内感染 | 破水後、子宮内に細菌が入ってしまった。放っておくと、赤ちゃんにも感染する危険性がある。 |
赤ちゃん側の理由 | |
---|---|
胎児機能不全 (たいじきのうふぜん) |
赤ちゃんの状態に問題がある。胎児 心音に異常なパターンがみられる。 |
常位胎盤早期剥離 (じょういたいばんそうきはくり) |
胎盤がはがれている程度が大きいほど、赤ちゃんは低酸素状態となり、危険な状態となる。 |
臍帯下垂・脱出 (さいたいかすい・だっしゅつ) |
へその緒が赤ちゃんの先進部よりも下がっている、または腟から出てしまう。赤ちゃんに酸素が送られにくくなり、危険な状態となる。 |
早産 | とくに妊娠週数が早い未熟児の場合。経腟分娩のストレスに耐えることが難しい。 |
3. もしも緊急帝王切開になったら、私と赤ちゃんはどうなるの?私にできることは?
緊急帝王切開が決まると、いろいろな術前検査や処置が急いで行われます。とくに常位胎盤早期剥離や胎児機能不全のケースでは、一刻も早く赤ちゃんを取り出すことが優先となります。
手術時間のめやすは30~60分。開始から赤ちゃん誕生までは5~10分です。
※ 手術を終えてお母さんが手術室から戻るまでの時間は、もう少しかかります。
※ (助産師の顔イラスト)は助産師からのアドバイス、(ママの顔イラスト)は実際のママの体験談です。参考にしてください。
1.術前検査・処置を受けます
- 緊急度が高いほど迅速に行います。陣痛がある場合もありますが、スタッフが声をかけながら行います。赤ちゃんと一緒に頑張りましょう。
- 夫が付き添っていなかったので、「こんな大事なことを1人で決めていいのかな?」と思って、すぐに 返事ができませんでした。でも、赤ちゃんの心音がゆっくりなのが分かって「迷ってる場合じゃない」と思い、決断しました。
2.手術室へ移動します
- 「こんなに痛くてお腹の赤ちゃんは 大丈夫なのか」と心配でしたが、「先生がなんとかしてくれる!」と思って、すぐに手術を承諾しました。 助産師さんたちの動きがすごく早く て、ついていくのに必死でしたが、 酸素を吸って頑張りました。だからこそ、この子は助かったんだと感謝してます
- ご心配だとは思いますが、ご家族は指定された場所でお待ちください。
3.麻酔をします
- 局所麻酔の注射針が入りやすくする ために、エビのように背中を丸くしてください。助産師や手術室の看護師 もお手伝いします。陣痛が来ている方は、呼吸法を続 けましょう。吐き気などがあれば教えてください。
※ 緊急度が非常に高い場合などは、 全身麻酔になることもあります。 - 手術台に上がっても陣痛は来るんですよ。助産師さんと一緒に呼吸法をやって、で、1回おさまったときに「先生!今です。今、麻酔入れてください」って言っちゃいました。
4.下腹部の皮膚と子宮を切開します
- 緊急帝王切開の場合、おなかの切り方は縦切開が多いです。帝王切開が2回目以降の方は、前回 の傷と同じ位置を切開します。赤ちゃんを取り出すとき、少しお腹を 押されることがあります。
5.赤ちゃんが誕生します
- 痛くはないんだけど、なんか触られてる感覚みたいなものはありました。
※ 全身麻酔の場合は感覚はありません。 - 緊急帝王切開では、手術決定から赤ちゃん誕生までのスピードが速いのが特徴です。
- 元気に生れて産声を聞いたときは、涙が止まりませんでした。
「赤ちゃん、やっと生まれたんだ!赤ちゃんも頑張ってくれたんだ」って。
6.子宮・皮膚を縫合します。母子の状態が良ければ赤ちゃんと対面します
- 手術となっても、赤ちゃんが誕生した後、母子の状態が良ければ、経腟分娩の場合と同じように初回対面できることもあります。
※ 赤ちゃんの状態が不安定な場合は、NICU(新生児集中治療室)に入院となることがあります。 - 赤ちゃんを見たら、それまでの心配や痛かったことなんか、もうふっ飛びました!
- ご家族は、指定された場所でお待ちください。お母さんが戻ってくるまでの間、新生児室や保育器内の赤ちゃんに面会できる場合もあります。
7.回復室(または病室)に移動し、経過をチェックします
- 赤ちゃんを見せてもらったときは、「この子がおなかの中にいたんだ!」ってほっとしました。手術が終わって、妻の顔を見たときは、「本当にご苦労さん、ありがとう!」って感謝でした。とにかく、子どもも 妻も無事でよかったです。
- 産後、「もうちょっと頑張れたかも しれない」とか「でも、あのとき切ってもらったから、赤ちゃんが 元気で生まれたんだ」とか、頭の中でぐるぐる回りました。でも、そういう思いを言葉にして助産師さんに聞いてもらって、だいぶん気持ちが楽になりました。
・・・それに、今こうして赤ちゃんが 元気におっぱいを吸ってくれるのは、あの時、手術したからだって思うんですよね。
8. 産褥入院
約1週間入院し、術後と産後のケアを受けます。
4. あなたの「もしも」のときのバースプランは?
お産のときの「もしも」の心構えはできたでしょうか。
帝王切開となった場合でも、あなたがどのようにお産に臨みたいか、あなたとご家族がどのように赤ちゃんを迎えたいかを考えておけば、 医療スタッフにもうひとつのバースプランを伝えることができます。
とはいえ、急な手術のときは余裕がないのが当然です。
ご家族の状況や出産施設の方針も関係します。下の「例」を参考にあなたの「もしも」のときのバースプランを整理してみましょう。
場 面 | バースプランの例 | あなたの希望は? |
---|---|---|
手術室で | ・ 怖がりなので、こまめに声を かけてほしい。 | |
赤ちゃん誕生 |
・ 目がわるいので、生まれた ら眼鏡をかけてほしい。 ・ 赤ちゃんの写真を撮りたい。 |
|
赤ちゃんのお世話・授乳 |
・ できるだけ早く母子同室がしたい。 ・ 体が回復するまでは、夜の授乳は休みたい。 |
|
産後の入院中の生活 | ・ 経腟分娩なら大部屋でよいが、もし手術になったら、個室にしてほしい。 |
※ 手術の緊急度や母子の健康状態などによって、希望どおりにいかないこともあります。
5. ご家族ができることは?
もしも、緊急帝王切開が必要になり、経腟分娩ではないとしても、ご家族(とくに夫・パートナー)のご協力が必要です。
緊急帝王切開では、立ち会い分娩ができない場合が多いですが、ご家族ができるサポートはたくさんあります。
表の「状況」を参考に、ご家族ができることを考えてみましょう。
場 面 | 状 況 | ご家族ができること |
---|---|---|
手術の決定 |
・ 医師から本人とご家族に 説明がある。 ・ 本人は陣痛などでつらく、 余裕がない場合もある。 ・ 急な決定だと、ご家族が 院内に不在のこともある。 |
(例)連絡先を明確にしておく。 |
手術室 | ・ 立ち会い分娩希望でも、緊急帝王切開になると、立ち 会えないことが多い。 | (例)指定された場所で待つ。 |
赤ちゃん誕生 | ・ 保育器に収容されたり、NICUに入院すると、すぐに抱っこできない。 | (例)写真が撮れるようにカメラ を準備しておく。 |
産後の入院 |
・ 入院期間が経腟分娩よりも 少し長くなる。 ・ 退院後も回復が遅め。 ・ 上のお子さんが小さい場合、 退院後すぐに今まで同様に お世話するのは大変。 |
(例)自治体の産後サポート事 業について調べておく。 |
※ 手術の緊急度や出産施設の方針などによって、状況は変わります。