東邦大学医療センター大森病院(東京都大田区)産婦人科診療部長インタビュー

ハイリスク妊婦さんを中心に、多くの方を受け入れる総合周産期母子医療センター

東邦大学医療センター大森病院の産婦人科は、東京都から総合周産期母子医療センターの認定を受けている医療施設です。母体・胎児集中治療管理室(MFICU)や新生児集中治療管理室(NICU)を備えているため、母体・新生児搬送の常時受け入れ、母体の救命救急への対応、ハイリスク妊娠に対する医療、高度な新生児医療などもおこなっています。そんな東邦大学医療センター大森病院の産婦人科について、森田先生と福田先生にお話を伺いました。

東邦大学医学部産婦人科講座主任教授 森田峰人先生

森田先生「ここは総合周産期母子医療センターなので、ハイリスクの妊婦さんが多く紹介されてきます。けれども大田区は地域的に分娩を取り扱う施設があまり多くないこともあり、リスクに関係なくこちらで分娩をされる方もいらっしゃいます。紹介状がなくても受診は可能ですが、紹介状がないと初診時に選定療養費を負担いただくことになります。なので妊娠の確認は地域のクリニックで受けて、紹介状を頂いてから受診いただくほうが何かとスムーズですね。でも紹介状がないとダメということはないんです。

地域柄、近年は中国人やミャンマー、ネパールなどの外国人の方も多いです。開業医さんだといろいろ制限を設けているところもあるので、結果、海外の方もこちらに来られることになるんですね。また東邦大学医療センター大森病院には全診療科が揃っているので、病気を持っている方でも産婦人科と一緒に各科の専門医に診てもらいながら妊娠・出産に臨めます。そのため不安を抱える妊婦さんが、安心のために東邦大学医療センター大森病院に通っていらっしゃるといったところはあると思いますね」

福田先生「東邦大学医療センター大森病院の産婦人科では、他の産院からの母体搬送の依頼は基本的にお断りしません。常に当直は3人体制にして、夜間でもだいたいのことに対応できるようにしています。もちろん、そのほかの科の医師も当直していますから、合併症のある方でも対応が可能です。そういうスタッフの手厚さや施設が充実しているところは大学病院の強みですね。

その半面、妊娠初期から入院・退院後まで同じ医師を選ぶことが可能というのは大学病院らしくないかもしれないです。決まった曜日に受診していただければ、同じ医師が担当するようにしているので、そこは妊婦さんから喜ばれています。医師を指名してきてくださる方もいますよ。

ほかにも、臨床心理士がいて、医療以外の悩みなどの相談に乗ってくれたり、ご希望があれば、東洋医学科と連携して、妊娠中のマイナートラブル対策で鍼灸の施術を受けられたりと、いろいろなスペシャリストのサポートを受けられるのも東邦大学医療センター大森病院のいいところです。また、2019年4月には、海外の方の受診率が増えていることから、国際医療支援部が設立されました。こちらでは通訳の手配をはじめとしたサポートを受けていただくことが可能です」

将来の妊娠・出産を考えた治療をモットーに

森田先生「東邦大学医療センター大森病院の最も大きな特徴は、妊娠・出産だけでなく、妊娠する前、妊娠・出産、その後も……と、生涯を通じて対応させていただけるというところだと思っています。産婦人科の領域には、『周産期』『腫瘍』『不妊』『女性医学』の4本柱があるのですが、東邦大学医療センター大森病院ではこの4本柱すべてに対応が可能です。

施設によっては、お産は取り扱うけれど、腫瘍は対応外などというところもたくさんあります。地域のクリニックだけでなく、大学病院の産婦人科でも4本柱のすべてに対応できるところばかりとは限らないんです。

近年、病気を抱えているけれど、将来妊娠を希望している若い女性はたくさんいらっしゃいます。そういう方たちに対して、ここでは将来妊娠できるように治療をすることを一番に考えています。たとえば、卵巣にトラブルがある、子宮にトラブルがあるという場合に、卵巣や子宮を取れば病気は治るかもしれないけれど、将来妊娠できなくなってしまいますよね。そこで私たちは機能を温存することを念頭に置いて治療しているのです」

子宮筋腫や子宮内膜症、卵巣嚢腫など女性特有の不妊の原因になりやすい病気にかかっている方は少なくありません。何らかの症状があっても放置してしまい、妊娠しにくいことで産婦人科を受診して、初めて重症化していることに気づくケースもよく見られると言われます。そのような場合、施設によっては、妊娠を希望していても、子宮や卵巣などを摘出することをすすめられて妊娠をあきらめざるを得なかったり、摘出はしなくても開腹手術を受けたことで妊娠・出産に大きなリスクを伴ったり、逆に妊娠出産しづらくなってしまうこともあるようです。

森田先生「何よりも“患者さんが将来妊娠できるように”ということを考えて治療をしていますから、手術方法も高度医療を用いておこないます。たとえば、子宮粘膜下筋腫の手術でも、子宮鏡手術という方法でおこないます。子宮鏡手術とは、おなかを切らず、腟から内視鏡を入れて子宮筋腫を取り除く方法です。おなかに傷が残らず、子宮自体に傷をつけないので、術後の回復が早いうえ、手術後に妊娠した場合も分娩時のリスクを少なくすることができるのです。

また子宮内膜症や卵巣嚢腫の場合は、腹腔鏡手術をおこないます。腹腔鏡手術は、おなかに小さな穴をあけて内視鏡を通して手術をするのですが、こちらもおなかを切らないので、回復の早さはもちろん、手術後に妊娠した場合の出産までのリスクを少なくすることができます。東邦大学医療センター大森病院では、子宮鏡手術、腹腔鏡手術の症例数で、全国でもトップクラスの実績を持っています」

不妊外来は夫婦で一緒に治療を受けられるシステム

産婦人科学講座助教 福田雄介先生

福田先生「東邦大学医療センター大森病院のリプロダクションセンター(不妊外来)は、産婦人科とは別の棟にあるのですが、ご夫婦一緒に治療が受けられるように、女性部門と男性部門を一緒においているんです。

統計的にみると、不妊症で悩んでいる夫婦の半数以上は男性にトラブルがあるケースです。そこで、泌尿器部門と産婦人科部門を一緒にし、ご夫婦で一緒に治療ができるようにしています。ご夫婦一緒に治療ができるほうが患者さんも手間がかからないですし、何よりご夫婦の治療内容が互いの科で把握できていれば、治療の効果が上がりやすいというメリットもあります。

多くのクリニックでは、不妊外来に泌尿器科の先生が常に在籍されていないのが一般的です。ですが東邦大学医療センター大森病院の泌尿器科では、男性の不妊専門医が2~3人在籍しています。泌尿器科で男性不妊の専門医は、全国で80人ぐらいしかいないので、そう言う意味ではこちらのリプロダクションセンターはかなり珍しいほうだと思います。実際、かなり遠いところから通われている方もいらっしゃいますよ。

新幹線で通っている方もいらっしゃるので、お住まいの近くの産院をご紹介することもあります。でも通える範囲の方では、こちらで産みたいという方が多いです。特に早産のリスクもあると診断された場合は、NICUもあり、新生児科の専門医も見てくれる安心感がありますから」

東邦大学医療センター大森病院の産婦人科では、先端技術を用いた「胎児鏡手術」で、全国トップレベルの実績を持っています。胎児鏡手術とは、双子の赤ちゃんに生じることがある「双胎間輸血症候群」という病気や、胎児の肺に水がたまるトラブルが起きた際などに胎児を子宮から出すことなく、内視鏡を使っておこなう手術のことをいいます。この治療がえるのは、全国で東邦大学医療センター大森病院を含めて10施設しかないのだそうです。

「生涯執刀医」を目標に、今でも週に5日は手術

森田先生も福田先生も、やさしい笑顔とやわらかな語り口調がとても印象的。お二人の和気あいあいとした雰囲気が、当産婦人科の雰囲気のよさを感じさせてくれます。

森田先生「産婦人科医を志したきっかけは、早くに亡くなった父親が産婦人科医だったこともありますね。あとは、手術などの外科系と内分泌など内科系の両方に携われるところに興味があったというのもあります」

福田先生「僕もそうですね、手術もあるし内科的なところも両方できるところが産婦人科医の魅力です。あとは帝王切開手術のダイナミックさに惹かれたのと、腹腔鏡や胎児鏡などほかの大学ではあまりおこなっていないことを学べるということにも興味がありました。

赤ちゃんは好きですけど、大学病院では正常妊娠・出産以外のケースに立ち会うことも少なくないので、生まれた後のことも考えると純粋に『おめでとう』とならない場合もあります。だから、赤ちゃんが好きというだけでは携わっていきにくいところはありますね」

広く明るい受付と待合所
設備が整った分娩室と入院時の個室
病院内のレストランは明るくくつろげる空間でした
産後は豪華なお祝い膳が提供されます

趣味は、居酒屋で全国のB級グルメを見つけて食べ歩くことだというおちゃめな面もお持ちな森田先生ですが、福田先生いわく、「実は、すごい先生」なのだそう。お忙しい立場にもかかわらず、毎日のように手術をおこなうのは相当体力的にも精神的にも疲れることと思いますが、それでも森田先生は、「患者さんが元気になって帰っていかれるのを見れば、多少の疲れはどうってことないです」とにこやかにお答えくださいました。

ベビーカレンダー編集部


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