にしさこレディースクリニック(神奈川県相模原市) 産院ごはん
コンセプトは、素材の味を大事にした家庭でも作れるごはん
太田さん「にしさこレディースクリニックでは、患者さんがご自宅に戻られてからご自分でも作れるお料理を提供しています。西迫院長の方針でもありますが、お祝い膳のようなお食事はありません。私がもともと日本料理の専門ということもあって、素材の味を大事にし、塩分よりもだしをきかせて余計なものは入れないように心がけています。
たとえば、今日の朝食のお味噌汁は、かつお節、煮干しなどをふんだんに使用し、お味噌は少量にしています。また、夕食のお魚料理では、野菜には塩を少々、あとはお魚のソースで召し上がっていただくように、素材の味を生かした調理をしています。
旬の食材を使用すれば、いちばんおいしい時期なので余計な味付けは必要ないと思っています。患者さんから『だしがすごくきいている、どのようにだしをとっているのか』と質問をいただくこともよくあります。約5日間の入院中に患者さんが召し上がったお食事を、ご自宅での料理の参考にしていただければうれしいですね」
メニューづくりはそれぞれプロとして違う視点から考える
料理長の太田さんは長年の調理の経験から、おいしさという視点で、川井さんは栄養士の視点で栄養面を考慮し、バランスのいいメニューを考えているとのこと。スーパーフードや大麦などのトレンドは、太田さんが見つけて積極的にメニューに取り入れているそうです。テレビなどで取り上げられる前に、トレンドな食材を見つけてこられることも多いとか。
太田さん「お食事のメニューは1カ月分を考え、その中で季節に合わせて内容を変えていっています。旬の食材、4月だとタケノコや山菜などを添えて、季節も感じられるようにしています。また、お料理に使う食材は野菜、とくに根菜類を中心にしています。そして、冬は温かいものを、夏はさっぱりしたものを召し上がっていただけるような工夫もしています。ご自宅でも参考にしていただけるといいのではないかと思っています」
川井さん「栄養面のこだわりは、3食で1日に必要なビタミンの摂取量をまかなえるように、基本的に毎食フルーツをつけるようにしていることです。小腹がすいたとき、菓子パンやスナック菓子などのほうが手軽だと思うのですが、授乳の際にはビタミンCなども通常時より失われますから、積極的に召し上がっていただきたいですね。
でも、たまには甘いものも……ということで、マンゴープリンや苺のムースなど、乳腺炎にならないように生クリームの量を調整してお乳にもやさしいデザートを提供しています」
食材は地元で。農家さんの話も参考にしています
川井さん「患者さんのお食事に使用する野菜は、町田・相模原近辺の直売所を数カ所回って直接食材を見て仕入れるようにしています。
直売所で野菜を仕入れることで、生産者の方とも顔を合わせてお話ができます。ふだんはあまり使わない野菜の部分の使い方などを生産者の方に聞いて、メニューの参考にさせていただくことは多いですね」
器は院長先生セレクトも!彩りにもこだわっています
太田さん「お食事を提供する器は、ナチュラルな雰囲気の器が多いです。これぐらいのサイズのこういう形の食器がほしいと伝えると、西迫院長が買ってきてくれるんです。
和食なのに、和風ではない器にお食事を盛り付けるのもおもしろいかなと思っています。サンドイッチひとつとっても、器によって見栄えが変わりますからね。花びらの形に細工したり、フルーツのカットなどでも季節を感じられるように、彩りにはとくにこだわっています。
和食、洋食、中華とまんべんなくメニューをつくっていますが、やはり和食出身なので和のテイストが出てきます。ベースは和食ですね」
患者さんからの質問は大歓迎です
太田さん「入院中のお食事というのは、レストランと違って自分でメニューを選ぶことができないので、みなさんのお口に合うように心がけています。
患者さんにはアンケートを退院前日にお渡しして、入院中のお食事の中で、気に入ったもの、口に合わなかったもの、そのほか気になったことなどをお聞きしています。患者さんから『野菜が豊富で、見た目もきれいで楽しい』『またにしさこレディースクリニックのごはんを食べたいので、二人目もこちらで産みたいです』といったコメントをいただくとうれしいですね。
とくにうれしかったのは、『にしさこレディースクリニックで食べたお食事のように、野菜をふんだんに使った料理を目指したい』というコメントですね。退院後に、ご自宅でマネしていただけるとうれしいです。
また、『レシピを教えてほしかった』というご意見もありました。お食事について気になったことがあれば、その都度どんどん聞いていただければレシピもお教えしたいと思っています。気軽に質問していただけるとうれしいです」
太田さんは、ふぐ料理屋からスタートして、川魚料理、すっぽん料理、うなぎ料理、てんぷら屋、ホテルなど、さまざまな和食の分野をご経験されてきた、この道40年の大ベテランの料理人です。
ご自身のお嬢さんも、このにしさこレディースクリニックでご出産されたとのこと。その際に、産院の食事が一般的な病院食とはまったく別物であることに驚かれ、今までの経験が役に立つのではないかと考えて、以前からこの産院で働くことを希望していたのだそうです。「念願かなって昨年9月からここで働くことができました」とうれしそうにお話しされていました。
太田さん「これからも、栄養のことを勉強しながらやっていきたいです。なかなかご自宅で栄養バランスのとれた食事をつくることは難しいかもしれませんが、昨今野菜不足と言われているので、患者さんにはたくさん野菜を摂っていただきたいですね」
栄養士になって初めて勤務したのが、にしさこレディースクリニックで、今年で勤続4年目になるという川井さん。学生時代、栄養学や調理学など学んできたけれども、学校で学んだことと現場は違うと話されます。「1人分の食事が2人分の命に影響を与えているこの仕事は重大だなと感じています」という言葉が印象的でした。
川井さん「前任の調理師さんの下で洋食を学ばせていただいたので、洋食の知識を少しは習得できていると思います。洋食をもっと勉強して極め、太田さんの和食と合わせて、さまざまなメニューを患者さんに提供していきたいです」
インタビュー後、西迫院長からも「食器もお盆もお箸も箸置きひとつでも、料理の見え方が変わってきます。身のまわりにある食材の使い方や調理法を工夫することでワンランク上の味わいや見た目を患者さんに提供したいと思っています。そして、配膳するスタッフの身だしなみや気遣いも含めて食事だと考えています」と、患者さんのお食事への強いこだわりについてお話を伺うことができました。
また、「食事スタッフは、当院の方針をよく理解してがんばってくれています」とうれしそうにお話される一面も。医療面だけでなく、お食事についても、細部にまで徹底的にこだわり、患者さんに最高のおもてなしを提供するにしさこレディースクリニックにぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?