愛和病院(福岡県古賀市)産院ごはん
母乳にいい食事作りのきっかけはBFH認定
蒋田さん「愛和病院は、母乳にいい食事を考えて提供しています。母乳にいい食事とは、つまり栄養バランスのとれた食事のことです。糖質、たんぱく質、脂質のバランスを考えてメニューづくりをおこなっています。
メニューづくりは管理栄養士の蒋田と堀川2人で担当しており、4週間交代で交互に考えています。患者さんに摂っていただきたい栄養素中心のメニューになりますが、組み合わせを変えたり、季節の食材を使ったり、また、行事食を提供することで、ハレの日とケの日のメリハリをつけたメニュー作りを心がけています。
愛和病院で提供している食事は、当初から『母乳にいい』ということに重点をおくスタイルだったわけではありませんでした。平成16年に、愛和病院がBFH認定を受けたことがきっかけで、『母乳にいい食事』というコンセプトに変わったんです。
現在は、食事だけでなく、おやつや夜食も母乳にいいものという方針に沿って手作りすることが多くなりました。たとえば、白砂糖をきび砂糖に変更したり、乳脂肪の摂取を抑えるために豆乳やヨーグルト、カッテージチーズを使ったりするなどの工夫をしています。
おやつは、全部で7種類あります。すべて200キロカロリー以下に抑えつつ、患者さんに満足してもらえるよう工夫しています。たとえば今日のおやつ、和風のパウンドケーキ『浮島』は、白あんを生地に練り込んでいますが、バターを使わないので150キロカロリー程度に抑えられています」
とくにお魚料理にこだわって力を入れています
蒋田さん「患者さんから”子どもでも食べられるから”と、よくレシピを聞かれる『魚のお好み焼き』は、愛和病院で長年人気のメニューです。ソテーした白身魚の切り身の上にお好み焼きの生地を乗せて焼くんです。そうすると、お魚も食べやすくなりますし、また、通常のお好み焼きだと小麦粉の量が結構多いのですが、お魚を使うことで小麦粉を半量にでき、カロリーを抑えることができるんです」
堀川さん「昼食がお魚料理だったら夕食はお肉料理というように、お魚が続かないようにしています。青魚は、母乳に良いDHAなどが含まれているので、週に何度か入れるようにしていますね。最近は、魚、とくに青魚が食べられないという方も多いので、ご自宅でも参考にしてもらいたいという思いも込めてメニューに入れています。
ときどき患者さんから『お魚料理が多かった、お肉が食べたかった』という声をいただくこともありますが、母乳にいい食事を提供したい、お魚をおいしく召し上がっていただきたいというこだわりを持って作っています」
来嶋さん「みなさんにおいしく召し上がっていただけるよう、下ごしらえもていねいにおこなっています。たとえば、食材を50℃のお湯で洗っています。肉、野菜、魚など、50℃のお湯で10秒くらいさっと洗います。そうすることで臭みが取れて身がやわらかくなるなど、料理の仕上がりが格段によくなるんです」
患者さんから「お魚がおいしかった」と言われることもよくあるそうです。こういったひと手間がお料理の味を上げているのでしょうね。
地元のおいしい食材を使用。産院の隣には自慢の手作り農園!
堀川さん「食材は、ほとんど地元で揃います。野菜、卵、味噌、醤油、お肉は古賀市内から、お魚や豆腐も隣町から仕入れています。お米はお隣の宮若市のお米『夢つくし』を長年使用していて、もちもちして大変おいしく、患者さんにも評判です。
今日のメインの付け合わせのなすは、愛和病院の隣にある『あいわ農園』で昨日採れたなすを使っています。あいわ農園は愛和病院が管理している農園で、スタッフが定期的に野菜を作っています。本業の農家の方が作っているわけではないので、形は不ぞろいですけど、新鮮でおいしいんです。
今は、なす、トマト、バジル、きゅうり、じゃがいも、オクラなどを作っています。食事で使用する野菜の一部ですが、農園の採れたての野菜を使うことで季節を味わうことができます」
調理に手間をかけるメリットを伝えたい
来嶋さん「患者さんは、退院してご自宅に戻ると、お母さんとして家族にお料理をすることになると思いますので、ご自宅でも再現できたり、ヒントになるような食事を作っています。
ただ本音を言うと、ご自宅と厨房では使う器具が違ううえに、すべて同じように再現するのは難しい部分もあると思いますが、手間をかけた分、料理はおいしくなります。
たとえば、ピーマンの内側の白い部分をとったり、もやしの根っこをとったりする作業は、細かくて大変で手間がかかります。でも、手間かけると、やっぱり料理がおいしくなり、見た目もよくなります。そのことを患者さんにもお伝えできたられしいです」
ブログやSNSでレシピを公開!積極的に情報発信をしています
来嶋さん「産後の食事といえば、以前は豪華な料理がはやりましたが、今は母乳にいい料理や、和食中心の料理を提供する産院が増えているように思います。
最近の患者さんは栄養について勉強熱心ですね。ですので私たちも、ブログやSNSでレシピを公開したり、院内の壁に写真を貼ったりして情報発信しています。多くの患者さんにご覧いただいていて、料理だけでなく産院の雰囲気もお伝えすることができているようです。それらが愛和病院を選ぶきっかけのひとつになってくれたらうれしいですね」
インタビューをさせていただいたお部屋の一角には、お料理の写真や季節を感じる装飾がありました。そんなひと手間も、来嶋さんがおこなっているそうです。患者さんには食事だけでなく、入院生活を快適に過ごしてほしいという想いと細やかな気配りを感じました。
地元密着の産院を目指します
来嶋さん「毎年11月3日に隣町でおこなわれる『まつり新宮』に愛和病院も出店しています。
綿菓子や焼き菓子を販売したり、来場者に妊婦体験をしてもらったり。多くの人に働いているスタッフの姿を見てもらい、産院の雰囲気などをお伝えできたらと思っています。今年も出店する予定ですが、今度で5回目になります。地元に密着しようということで、地元に愛される産院を目指しています。
お祭りには、愛和病院で出産されたという方もいらっしゃいます。親子二代にわたって愛和病院でご出産という方も少なくありません。これから、三代、四代と続いていくとうれしいですね」
堀川さん「愛和病院では、妊娠中の患者さんや、産後入院中の患者さんに向けて、栄養指導や離乳食教室をおこなっています。また、週に1回『母と子・ライフサポート館』で個別に離乳食指導もおこなっています」
母と子・ライフサポート館では、愛和病院の助産師さんも常駐しているとのこと。愛和病院で出産された方だけでなく、地元のみなさんが専門家に気軽に相談できる場となっているそうです。
患者さんへのメッセージ
蒋田さん「私が勤めてきたこれまでの職場と違って、『愛和病院では食材費をかけていい』と言われたことに、まずおどろきました。生の野菜は価格が天候に左右されるので、コスト面を考えるとなかなか使えない食材ですが、愛和病院ではじゅうぶんに使うことができます。母乳にいいものを使って、患者さんの体にやさしい食事を心がけているので、安心して召し上がっていただきたいですね」
以前は、総合病院や保育園で栄養士として働かれていた蒋田さん。産婦人科の食事は豪華なイメージを持たれていたそうですが、母乳にいい食事という愛和病院のコンセプトに、ご自身の考え方を変える必要があり、かなり勉強されたそうです。現在は、妊婦さんへの食事指導もおこなっているそうで、母乳や赤ちゃんのために、妊娠中の食生活から見直していただけたらという強い想いも聞かせてくださいました。
堀川さん「愛和病院の食事は、”母乳にはこういう食事がいい”という見本のような仕上がりですが、実はそこまで難しい献立ではありません。ご自宅でも作ることができるように、というコンセプトで料理を提供しています。私も自宅で料理を作るとき、よくレシピをマネしています。ぜひ患者さんにもご自宅で作っていただきたいなと思っています」
堀川さんは、愛和病院でお2人のお子さんを出産された元患者さんでもあるそうです。お子さんを出産された前後でいろいろな気付きがあり、仕事の仕方も変わっていったとのこと。また、1人目と2人目で、気持ちや心の余裕がまったく違ったとお話されていました。管理栄養士として先輩ママとして、愛和病院の患者さんだけでなく地域の離乳食相談でも、多くの新米ママの支援をされている堀川さん。患者さんと接するこの仕事に対して「やりがいを感じています!」と力強く語る姿が印象的でした。
来嶋さん「私は古賀市の隣の新宮町に住んでいますが、そこは日本でも人口増加率が高い町なんです。現在、小学校はパンクしている状態で、その小学校の半分が愛和病院で生まれた子どもたちになってくれたらうれしいです。また、古賀市の子どもたちも、もっと愛和病院から生まれていってくれたらと思います」
「地元と密着して、地元愛でやっていきたい」と、落ち着いた口調ながらも、熱い想いを語る様子がとても印象的な来嶋さんでした。
おいしく、母乳にいいお食事をいただけることはもちろん、栄養面や離乳食の指導も手厚く、そして温かな雰囲気を感じることができる愛和病院。みなさんもぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?