私は念願の大学に進学し、実家を出て一人暮らしを始めました。しかし生活は、楽ではありませんでした。生活費と学費をまかなうため、コールセンターや飲食店のアルバイトを掛け持ちする日々。それでも、安定した企業に就職するという目標のために必死で頑張りました。
そんな忙しい毎日を過ごしていた、当時大学3年生の私に、母から突然連絡がありました。私が夜中まで働いていることをどこからか聞きつけ、「水商売なんて恥知らずだ」と勝手な勘違いで私をののしってきたのです。
「姉が水商売をしていると世間に知られれば、あの子(弟)の人生に傷がつく!」と大騒ぎ。散々なじられたあと、なんと母は「そんな仕事をしているなら、あなたお金あるんでしょう?」と私にお金を無心してきました。弟が友人との間で起こした金銭トラブルの解決金を、私に肩代わりしろと言ってきたのです。
盲目的な愛に溺れる母
大学生になった弟の生活を知っている私は、「あの子ならやりそう」と冷静に受け止めました。しかし、母は弟を溺愛するあまり、真実を直視できていない様子。
「トラブルを起こしたのなら、自分でアルバイトをして返させればいい」
私がそう伝えると、母は「勉強を頑張ってるあの子を働かせるなんて言語道断よ」と激怒。私は高校生になったとたん、アルバイトをすすめられ、バイト代を母に渡していたのに……。
理不尽な要求に応じる義理はないと断ると、母は「お前なんか家族じゃない!」と吐き捨てました。「そんな仕事ばかりしていたら、そのうち悪い男にだまされる」とまで言われ、私は両親と距離を置くことにしました。
それから数年後、職場で出会った夫と結婚することになった私。気はすすまなかったものの、母に電話で結婚の報告をしました。私に興味のない母は「あら、そう。面倒だからあいさつとか来ないでちょうだいね。でもまぁ、結婚式くらい出てあげてもいいわよ。あなた側だけ親族席がないってさすがに不憫だものね。ふふ」と。
そして迎えた結婚式当日、母から突然連絡があり、信じられない言葉を投げかけられたのです。
「今日はあの子の就職祝いなの」
「あなたの結婚式より大事だからそっちは欠席ね!」
母は昔から思い立ったらすぐ行動するタイプです。おそらく前日か当日の朝にでも、弟から就職が決まったと聞いたのでしょう。結婚式をドタキャンされたことは不思議ではありませんでしたが、その後に母が続けた弟の話に私は少し引っかかりました。
「あの子ね、この辺りじゃ1番の◯◯メーカーに内定もらえたのよ! 本当に優秀で親孝行な子よね。だから今日はそのお祝いをしなくっちゃ! あなたの結婚式より大事でしょ?」
「新郎、知ってる?」
「え?」
母は、私の質問の意味がわからないという様子でした。電話で結婚の報告をしたときも話したし、結婚式の招待状にも夫のプロフィールが記載されていたのですが、興味がなく、まともに聞いても読んでもいなかったのでしょう。
母が自慢げに話す弟の就職先は、大手というわけではないものの地元では有名なメーカーでした。しかし……。
暴かれた真実
実は、私の夫は弟が内定を得たという、そのメーカーの人事部に勤務しており、採用面接にも参加していました。私自身も同じ会社の総務部に勤めており、説明会などで学生の案内などをしていました。しかし、夫も私も弟の名前を見たり、会ったりしたことは一度もなかったのです。
確信はありませんでしたが、夫も写真で弟の顔は知っていますし、私も採用に関わる業務のなかで学生たちに会う機会が多かったので、弟の姿があれば気づくはず……。弟は、両親の見栄を満たすため、嘘をついていたのではないかと考えました。
私が夫と自分の勤める会社と仕事の内容を伝え、「本当にうちの会社の内定が出てるの?」と聞くと、母は慌てふためきました。「あの子が嘘ついたって言いたいの!? あの子は内定もらったって言ってたの!」と頑なになる母。そこで私は、知っている限りの事実を告げました。
弟は大学に入って以降、あまり大学には行っていない様子だったのです。私も弟本人から聞いたわけではありませんが、私の高校時代の親友の弟と私の弟は同級生で、同じ大学の同じ学部に進学していました。そのため私は、親友経由でたまに弟の様子を聞いていたのです。
弟は大学に真面目に通っておらず、授業もさぼりがちだったそうです。卒業は見込まれていたものの、就職が決まっているかどうかは定かではありませんでした。幼いころからの両親の、特に母の詰め込み教育がストレスだったのか、きっと大学生になり少し自由ができたことで遊びを優先するようになってしまったのでしょう。
そんな過ごし方をしていると知っていたため、弟が大学1年生のころに金銭トラブルを起こしたと聞いたときも驚きはなかったのです。
弟はまだ実家で暮らしていますが、両親は「あの子は優秀」と完全に思い込んでいるため、きっと弟の変化に気づかなかったのでしょう。私を出来損ない扱いし、弟を神様のように持ち上げて甘やかしてきた結果がこれです。
その翌日、弟は実家を出て行ったと聞きました。両親から激しく問い詰められ、本当のことを話したのでしょう。親友経由で聞いた話ですが、弟は実家を飛び出し、彼女の家に転がり込んだようでした。
弟自身の弱さも問題ですが、盲目的に弟を持ち上げ、挫折を知らないまま育てた両親の責任も重いと感じずにはいられません……。
新しい家族と新しい人生
「私たちが本当に大事にすべきはあなただった……」
希望の星だった弟が家を出て1カ月後、放心状態の母から連絡がありました。私が安定した企業で働き、頼りになりそうな夫と結婚したと知ってすり寄ってきたのです。今まで散々私を邪険に扱ってきたのに、今さら態度を変える両親に寒気を覚えました。
「2人で一緒にうちにあいさつに来なさい、あなたたち夫婦を家族として認めてあげる」と上から目線で言われましたが、もちろんきっぱりと断りました。
結局、両親が甘い言葉をかけてくるのは、自分たちの老後の生活を私に頼りたいから。きっと理由は、そんなところでしょう。経済的に援助するつもりは一切ないこと、生活に困っているなら自分たちでどうにかしてほしいことを伝えると、「ここまで育ててやった恩を忘れたのか」と返ってきました。
夫や義両親には、実家での私の扱いやこれまでの経緯をすべて伝えてあります。その上で私を受け入れ、本当の家族のように温かく接してくれています。私は、心から信じられる人たちを大切にしながら、これからの人生を歩んでいきます。
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家族だからといって、無条件にすべてを許容し、支え合わなければならないわけではありません。お互いを尊重できない関係であれば、距離を置くことも自分を守るための大切な選択です。情に縛られず、自分自身が心から安らげる居場所や人間関係を最優先に守っていきたいですね。
【取材時期:2026年3月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。