ずっと下を向いたまま、私が話しかけても視線を合わせようとしません。無視されているようで、正直戸惑いました。
それでも、これから家族になるからと、何とか打ち解けようと話しかけ続けていたのですが……?
突然表示されたメッセージ
しばらくすると、テーブルの下でスマートフォンをこちらに向けてきた彼の姉。そこに表示されていた大きな文字に、私は目を見開きました。
「逃げて」
意味がわからず固まっていると、画面が切り替わります。
「今すぐうちから出て行って」
「17時に駅前のカフェに1人で来て」
彼の姉はうつむいていましたが、私を見る目は真剣なものでした。これはただごとではないと感じた私は、一通りのあいさつを済ませると、急用を思い出したことにして早々に彼の実家を後にすることにしました。
そして、約束の時間に駅前のカフェへ向かったのです。
婚約者の姉から聞かされた彼の本当の姿
カフェで会った彼の姉は、先ほどとは別人のように落ち着いた様子でした。そして「さっきは失礼な態度をとってごめんなさい」「これを聞いてほしいの」と言って、スマートフォンを差し出してきたのです。
そこに残されていたのは、彼と両親の会話の録音でした。
「結婚相手を見つけてきたよ!」とうれしそうに語る彼の声。しかし、それに続く内容は衝撃的なものでした。
「将来はうちで同居しようね」
「母さんは好きなことしていいから」
「家のことも生活費も、俺と彼女に任せてよ」
さらに、「結婚しても、一番大切なのは母さんだから!」と言い切る彼の声もはっきりと残っていました。
今まで見てきた彼とは、まるで別人のよう……。言葉を失っている私に向かって、彼の姉は静かに頭を下げました。
「こんな家族で……本当にごめんなさい」
そして、彼は昔から母親への依存が強く、将来も離れる気はないことを教えてくれたのです。彼女自身は以前から家族に違和感を覚えていて、こうした会話を密かに録音していたのだと言っていました。
思い当たる違和感
彼の姉の言うことをすべて信じることはすぐにはできませんでしたが、思い返すと気になる言動はいくつもありました。
彼は以前から親との同居をほのめかす発言をしていましたし、新婚旅行に両親を呼びたいと言われたこともあります。家族思いな人だと思っていましたが、今考えると違和感のある言葉でした。
そして誕生日やクリスマスには、私へのプレゼントよりも高価なものを母親に贈っていた彼。「来年から年末年始はずっとうちの実家で過ごそうね」と当然のように言われたときには、強い違和感を覚えました。
それらがすべて、1本の線でつながったように感じられたのです。
私が出した結論
私は彼に会い、結婚をやめたいと伝えました。しかし彼は納得してくれません。
そこで私は、「同居はしない」「親の介護はそれぞれが責任を持つ」「経済的な支援をする場合は、両家に対して公平にする」としたためた書面を作成。これに同意するなら結婚を考えると言って、彼に突きつけたのです。
彼はその書面の内容を見ると、顔色を失いました。そして結局、サインをすることはありませんでした。
こうして、私たちの婚約は解消されたのです。
後日、彼の姉と偶然街で再会しました。私が婚約を解消したことを伝えると、ホッとしたように笑い、「正しい選択だと思う」と言ってくれました。
私が別れを切り出したあと、彼と両親は引き止める方法を何度も話し合っていたようです。その話を聞いたとき、結婚していたらどうなっていたのだろうと、背筋が凍りました。
彼女自身も長い間、家族との関係に悩んでいたそう。「そろそろ距離を置こうと思っているの」と言ったときの切ない表情は、今でも忘れられません。
今回の出来事を通して、結婚は当人同士だけでなく、その家族との関係も大きく影響するものだと実感しました。
親を大切にすること自体は決して悪いことではありません。しかし、そのために結婚相手に過度な負担を求める関係では、健全な家庭は築けないと感じました。
結果的に私は結婚を選びませんでしたが、あのとき彼の姉が勇気を出して知らせてくれたことに、今でも深く感謝しています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。