それは夫の実家――私にとっては義実家のこと。義母は娘である義妹をとてもかわいがっており、夫にはあまり関心がない様子でした。
実際、夫の話では子どものころから主に面倒を見てくれていたのは義父だったそうです。
私はその関係性にどこか距離を感じており、妊娠の報告もまずは義父に伝えることに。義父は「おめでとう。無理はするなよ」と穏やかに声をかけてくれて、その言葉に安心したのを覚えています。
一方で、義母と義妹の反応は「結婚からずいぶんと時間がかかったのね」「ふーん、それで?」と冷淡でした。妊娠について深く触れられず、ありがたいといえばありがたかったのですが、どこか距離を感じる反応だったのです。
2人の興味は、義妹の縁談だけ。
「うちの娘が玉の輿に乗るかもしれないのよ!」
そう言って盛り上がっている様子を見て、私は義母と義妹との関係に不安を覚え始めていました。
出産直前の呼び出し
出産予定日が近づいていたある日、夫から義妹の結婚に向けた両家の顔合わせがあると聞きました。相手は会社を経営している家庭とのことで、義母はとても張り切っている様子。
私は臨月に入っており、いつ出産になってもおかしくない状態でした。そのため、夫だけが出席することに。
そして顔合わせ当日、夫を見送ったあと自宅で安静にしていると、おなかの張りと痛みが徐々に強くなっていきました。「もしかして……陣痛?」と思いましたが、まだ痛みの感覚は不規則。おしるしもありませんでした。
産院に連絡すべきか悩んでいたそのとき――義母から電話がかかってきたのです。
「どうして来ていないの!?」
事前に断りを入れていたにもかかわらず、義母は私も顔合わせに出席すると思い込んでいたようでした。改めて状況を説明したのですが、義母は納得してくれません。
「少しくらいなら大丈夫でしょ?」
「向こうの家族も全員そろっているんだから、あなたも来なさい!」
だんだんと義母の語気は強くなり、おなかの痛みもあって、私は冷静な判断ができなくなってしまいました。
「そっちにタクシー手配したから! さっさと来てちょうだい」
「失礼のないように、ちゃんとした格好してきてね」
結局、私は義母の手配したタクシーに乗って、指定された料亭へ。道中は痛みに気を取られ、ほとんど覚えていません。
料亭で起きた予想外の展開
料亭に到着すると、夫は驚いた様子で「なんでここに!?」と声をかけてきました。私は事情を伝えましたが、その時点で痛みはかなり強くなっていました。
「娘の大事な顔合わせなんだからね」
「ちゃんと姿勢を正しなさいよ」
義母と義妹にそう言われ、なんとか背筋を伸ばそうとしたのですが、それももはや無理な状況。義父は「救急車を呼ぼう」と言い出し、夫は私を支えながらおろおろしていました。
そのタイミングで、向こうのご家族が現れたのです。
私の様子にいち早く気づいたのは、義妹の婚約者の母親でした。
「どうしたんですか!」
そう言って駆け寄ってきてくれたのです。私が妊婦であり、出産予定日が間近であることを知ると、義妹の婚約者の母親は真っ青に。
「まだまだ出産まで時間はかかりますから大丈夫ですよ」
「いざとなったらタクシーか何かで産院に向かわせますから!」
焦る様子も見せない義母と義妹を厳しい目線で見据えたあと、義妹の婚約者の母親はてきぱきと指示を出していました。
義妹の婚約者が「僕の車で送ります! 旦那さんも乗ってください!」とすぐに自分の車を回してくれたので、私は夫と婚約者の母親に付き添われながら産院へ向かうことに。道中、婚約者の母親は励ましの言葉をかけ続けてくれました。
あとから聞いた話ですが、その方は医療関係の仕事をしており、危険な状況であることを一瞬で理解していたそうです。
家族の形の変化
産院にたどり着いた私は、そのまま分娩室に運ばれて出産。無事にかわいい女の子を産むことができました。
別のタクシーで駆けつけてくれた義父は、喜びのあまり大号泣。夫と義父と一緒にひとしきり泣いて気持ちを落ち着けたあとに、その後のことを聞きました。
出産間近の私に無理をさせたことについて、相手側からは厳しい指摘があったそう。義妹の縁談は見直されることになりました。
義父は「本当にうちの妻が申し訳なかった」と深々と頭を下げ、私に謝罪してくれました。そして今回のことをきっかけに、これまでの家族関係に区切りをつけ、義母と別居して私たち夫婦の近くで暮らすことを選んだのです。
初めての育児はとても不安でしたが、義父が手伝ってくれることもあり、変わらず穏やかな生活を送ることができています。
家族であっても、無理を強いられる関係が続くことは健全とは言えません。あのときの私は冷静な判断ができず、結果的に危険な行動を取ってしまいました。
今になって、「無理なものは無理」とはっきり伝えることの大切さを実感しています。自分自身と大切な人を守るためにも、違和感を覚えたときには無理をしない選択が必要だと感じました。
※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。