母への誕生日プレゼント計画
母は地元で衣料品関係の仕事をしており、昔から服を見る目には厳しい人でした。女手一つで私を育ててくれた、私にとって尊敬する存在です。
誕生日が近づいたある日、私は母に電話をかけました。
「私がプレゼントするから、今年は一緒に選ぼうよ」
すると母は少しうれしそうに、地元の高級婦人服店に行ってみたいと言いました。以前から気になっていたものの、忙しくてなかなか行けなかったそうです。
私は「任せて。販売員10年の目で、似合うものを選ぶから」と張り切り、母も「頼もしいわね」と笑ってくれました。久しぶりの母娘の外出に、私も心が弾んでいました。
高級店で受けた信じられない対応
誕生日当日。私たちはその店を訪れました。店内には上質な洋服やバッグが並び、落ち着いた雰囲気が広がっていました。ところが、対応に出てきた女性店員・A子さんは、私たちを見るなり露骨に表情を変えたのです。
「何かご用ですか?」と言う声には歓迎する空気がありませんでした。さらに私たちの服装を見て、こう続けました。
「当店は品質を重視されるお客さまが多いので、見るだけの方はご遠慮いただいているんです」
私は耳を疑いました。「買い物に来ました。母の誕生日なので」と伝えても、A子さんは鼻で笑うように、「ご予算に合うものはないと思いますよ」と取り合いません。
販売員として働く私には、その接客がどれほど失礼かすぐにわかりました。見た目だけで客を判断し、最初から線を引く態度。怒りよりも、同じ販売員として情けなさを感じました。
母の立場を知って青ざめた店員
情けなさと怒りで「もう帰ろう」と言いながら母の顔を見ると、なんと母はうっすらと笑顔を浮かべていたのです。「何で笑ってるの?」と聞いた私に「だってこの店……」と母が言いかけたそのとき、奥から店長のB山さんが慌てて出てきました。そして母の姿を見るなり、深く頭を下げたのです。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます」
私は驚いて母を見ました。すると母は落ち着いた様子でこう言いました。
「この店の今後について相談を受けていてね。来月から私の会社が運営に加わることになったの」
「今日は買い物がてら現場の様子を見に来たのよ」
母は仕事の話を家でほとんどせず、私にも詳しく語ったことはありませんでした。昔から服を愛してやまないことは知っていましたが、まさかこんな高級店の運営まで任されるような仕事をしているとは……。私は驚きながらも、母を誇らしく感じました。
母の正体を知ったA子さんは顔色を変え、「申し訳ありませんでした」と慌てて頭を下げました。
ですが母は静かに言いました。
「服装や年齢だけでお客さまを判断する方に、接客は任せられません」
さらに母は、自分が着ていた服に軽く手を添えながら「これは私が長く大切に着てきた一点ものです。ブランド名だけで、服の価値を判断してはいけませんよ」と続けました。
A子さんは青ざめた表情で、何も言い返せませんでした。
私がつかんだ新しいチャンス
その後、A子さんについては接客姿勢や勤務態度も含めて見直しがおこなわれ、いったん売り場を離れることになったそうです。店舗全体でも、接客方針や教育体制を見直すことになったそうです。
そして母から突然、「あなた、この店の立て直しを一緒にやってみない?」と声をかけられました。
私は驚きました。すると母は笑ってこう続けたのです。
「あなたが親を頼らず、現場で10年積み重ねてきた経験は本物よ。だから今、声をかけたいと思ったの」
その言葉に、胸が熱くなりました。
私は悩んだ末、母の会社が進める新体制の一員として、この店舗の運営に参加することを決めました。今は店長補佐として、売り場づくりや接客指導にも携わっています。
お客さまを肩書きや見た目で判断せず、誰もが気持ちよく買い物できる店にしたい。あの日の悔しさは、私にとって夢へ近づくたしかな一歩になりました。
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見た目や服装だけで相手を判断すると、本当に大切なお客さまや人とのご縁を逃してしまうことがありますよね。接客に必要なのは、相手への敬意と想像力なのだと感じさせられるエピソードでした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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