亡きお母さんが大好きだった娘。すぐに私を「母親」だと思ってほしいというのは、酷な話だとわかっていました。そのため、しばらくは無理に距離を詰めずに見守ることにしたのです。しかし、娘は近所に住む義母の家にばかり遊びに行き、私たちは一向に仲良くなれませんでした。
お母さんじゃなくておばさん!
結婚して数年が経ち、娘が中学生になっても私との関係は平行線のまま。ある日、夫が「今度の授業参観はお母さんと2人で行くよ」と声をかけると、娘は「母親面しないでくれる? このおばさんは、お母さんじゃない!」と激しく反発し、部屋に閉じこもってしまいました。
さすがの私も気が滅入ってしまいましたが、そんなときは亡き親友が私に残してくれた手紙を読み返していました。そこには、私が以前から夫に好意を寄せていたことに気づいていたこと、自分が彼と結婚してしまって申し訳なく思っていたこと、それでも私たちの関係を応援してくれてうれしかったこと、そして「もし私が亡くなったあと、夫が再婚するならあなたがいい」という彼女の思いがつづられていました。
何度読み返しても涙が流れてしまうこの手紙。私は彼女の気持ちを忘れないよう、仏壇の引き出しに大切にしまっていました。
家を出て行った娘
そんなある日、高校生になった娘が突然大きな荷物を持ってリビングにやってきました。「他人と一緒に暮らしたくないから、おばあちゃんの家に住む!」と言って、そのまま家を飛び出してしまったのです。
「他人」とは、紛れもなく私のことでしょう。私はショックでその場から動けなくなってしまいました。慌てて夫が娘を追いかけ、家に戻るよう説得を試みたのですが、祖母を慕う娘の決心は固く、それ以来、娘は義母の家で生活することになりました。
娘は義母の家から高校に通い、卒業後は進学せずに地元の企業へ就職。ほどなくしてひとり暮らしを始めました。お盆やお正月にも実家には顔を見せず、すっかり疎遠になってしまった娘でしたが、家を出てから10年、娘が20代半ばに差し掛かったころ、転機が訪れます。
結婚の報告に
ある日、娘から「結婚が決まったから、父さんに直接報告したい」と連絡がありました。数年ぶりに家を訪れた娘は、昔と変わらずよそよそしい様子でした。
一通り話がすんだあと、娘は仏壇に手を合わせに行きました。亡き母に報告をしたかったのでしょう。しばらくして戻ってきた娘の目は、真っ赤に腫れていました。
その日は言葉少なに帰宅しましたが、数日後、私宛てに丁寧な言葉で結婚式の招待状が届いたのです。私は驚きつつも、親友の写真を持参して式に参列することにしました。
結婚式で暴かれた真実
結婚式当日。親族の控室で挙式が始まるのを待っていると、スタッフに新婦の控室に来るよう呼ばれました。私は娘に何かあったのかと思い、ヒヤヒヤしながら控室に入りました。すると、娘がキレイなウエディングドレスを着てひとりで待っているではありませんか。
私を見るなり、娘は涙をこぼしながら、これまで私と距離を置いていた理由を語り始めました。実は、娘が私と距離を置いていた原因は、義母の心ない言葉にあったのです。前妻を過剰にかわいがっていた義母は、私たちの再婚を快く思っておらず、多感な時期の娘に「ママが病気で苦しんでいるとき、あの人がパパに近づいて、ママを追い詰めたのよ」と嘘を吹き込んでいたというのです。
しかし、先日結婚の報告に来た際、仏壇でお線香を探しているときに、引き出しに入っている手紙に気づいたそうです。懐かしい字に思わず手に取って読んでみると、実の母が私の幸せを願っていたと知り、ようやく誤解が解けたと打ち明けてくれました。
真実を知り、私の胸はギュッと締め付けられました。憎まれていた驚きよりも、そんな重い誤解を抱えて彼女がどれほど苦しかっただろうかと、たまらない気持ちになったのです。
「お母さん、ひどいことを言ってごめんなさい。いつも温かく見守ってくれてありがとう」
「お母さん」その一言に、10年間の寂しさがふっと解けていきました。気の利いた言葉も返せず、ただ涙があふれました。長い時間を経て、ようやく娘と心を通わせることができたのです。
その後の披露宴で読まれた新婦からの手紙には、「私をずっと見守ってくれた、もう1人のお母さん、ありがとう」という言葉が添えられていました。涙を拭いながら手元の写真を見ると、親友もいつもよりやさしくほほ笑んでいるような気がしました。
◇ ◇ ◇
周囲の心ない言葉によって、長いすれ違いが生まれてしまった家族。しかし、焦らずに相手を見守り続けたことで思いが少しずつ伝わり、最終的には関係の修復につながりました。
相手を思いやる気持ちがあれば、血のつながりや長い時間の隔たりを越えて、関係をつないでいく力になります。うまくいかない時期があっても、相手を大切に思いながら見守り続けることが大切なのかもしれませんね。
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。