ある日、夫から「会社が倒産した」と連絡が入りました。以前から経営状況が良くないという話は聞いていましたが、まさか本当に倒産するとは思っておらず、私もかなり動揺しました。
帰宅した夫は、抜け殻のような状態。突然仕事を失ったショックは大きかったと思います。だから私は、「しばらくは焦らなくても大丈夫だよ。私の収入もあるし、貯金もあるから」と声をかけました。
夫婦なのだから支え合うのは当然だと、私は思っていたのですが……。
変わってしまった夫
その後、夫は近所でアルバイトを始め、再就職に向けて資格の勉強もしていました。最初のうちは「ちゃんと前を向こうとしているんだ」と安心していたのですが、次第に様子がおかしくなっていったのです。
帰宅時間はどんどん遅くなり、家事は完全に私任せ。お酒を飲んで朝帰りすることも増加。それでも私は、失業によるストレスが原因なのだろうと思い、できるだけ責めないようにしていました。
そんなある日、夫が再就職の面接を無断で欠席していたことが発覚。さすがに見過ごせず、「どうして行かなかったの?」と問いただしたところ、夫は苛立った 様子でこう言ったのです。
「お前が大企業で稼いでるんだから、生活には困らないだろ」
「俺が無理して仕事探しても、お前の稼ぎには届かないんだから」
その言葉を聞いた瞬間、胸が苦しくなりました。励ますつもりでかけていた言葉が、夫にとっては“養われている”という劣等感につながっていたのかもしれません。
それ以降、夫はさらに家に帰らなくなりました。「バイトを増やした」と言っていましたが、連絡はほとんど取れず、外泊する日も増えていったのです。
夫の素行の調査結果
あまりにも連絡が取れなくなった夫。事故や事件に巻き込まれている可能性も考え、不安になった私は友人へ相談しました。
すると友人は、私の話を聞いたあと、「そういうのは、専門の調査会社に頼んだほうがいいかも……」と言ってくれたのです。私はそのアドバイス通りに、調査会社に依頼することに。
調査会社の担当者は、私の話を聞いて、少し言いづらそうに「経験上ではありますが……その状況だと、女性関係の可能性が高いかもしれません」と言いました。私は夫に何もないことを祈りながら、調査をお願いすることにしたのです。
調査結果が届いたのは、それから間もなくのことでした。
担当者の予想通り、夫は夜の店で働く女性と関係を持っており、その女性に頻繁にお金を使っていました。アルバイトを掛け持ちしていたのも、生活費のためではなく、その女性に貢ぐためだったようです。
さらに調査を進めるうちに、相手女性には以前から金銭トラブルが多く、複数の男性と同じような関係を持っていたことまで発覚。なかなかのくせ者だったようです。
「そうだったんだ……」という冷静な気持ちで、私はただ調査結果の書かれた紙を見ていました。不思議と、怒りは湧きませんでした。
一方的な離婚の要求
証拠も十分にそろい、今後について整理しようと思っていた矢先のこと。なんと、夫から突然、離婚を切り出されたのです。
「離婚してほしい」
「関係を持った女の子が妊娠したんだ」
さらに夫は、「貯金もないし、慰謝料は払えない」「お前はたくさん稼いでるんだから、金を渡さなくてもいいだろ? 俺はこれから子どもを養わなきゃいけないんだ」と続けました。
あまりに身勝手な話でしたが、そのころには私の気持ちも完全に冷めていました。長期間争うよりも、早く夫との関係性を終わらせたいという気持ちのほうが強かったのだと思います。
「離婚についてはわかったわ。慰謝料については、こちらの条件を受け入れてくれたら請求しないから」
離婚そのものに異論はありませんでしたが、後々揉めないよう、私は弁護士を通して離婚協議書を作成することを提案しました。
夫は“私の出す条件”に身構えていましたが、私が取り決めたのはこの3つだけ。
「今後お互いに直接連絡を取らないこと」「金銭の請求をおこなわないこと」「違反した場合には違約金を支払うこと」――その代わりに、私は夫の不貞行為に関する慰謝料請求権を放棄したのです。
夫は書面を一瞥してほっとした様子。その書類と離婚届に双方署名し、私たちの離婚は成立しました。
約束を破った元夫
離婚から1年ほど経ったころ。知らない番号から電話がかかってきました。
出るか迷いましたが、嫌な予感がして応答すると、相手は元夫。その声はひどく弱っており、私は何度か本当に元夫なのか確認してしまいました。
話を聞くと、再婚相手の妊娠は嘘だったそうです。さらに、相手女性には多額の借金があり、元夫は返済を肩代わりしていたとのこと。消費者金融からの借り入れだけでなく、元夫名義で新たな借金まで作られ、生活は破綻寸前になっているそう。
電話口で元夫は泣きながら、「助けてほしい」と繰り返しました。
しかし、私は驚きませんでした。調査結果を見た時点で、いずれこうなる可能性は十分あると思っていたからです。
淡々と、「離婚協議書の内容、覚えてるよね」とだけ言った私。「今後一切、直接連絡しない」という取り決めに違反した以上、違約金を請求するつもりだと伝えると、元夫は何も言えなくなっていました。
仕事を失うことは、人生の中でも大きな挫折だと思います。だからこそ、私は元夫を支えたいと思い、叱咤激励していたのです。しかし、私の声は元夫には届かず、元夫は甘言に惑わされてしまいました。
今回の出来事で、苦しい状況のなかでどう行動するかによって、その後の人生は大きく変わるのだと痛感しました。もし元夫が、誰かに逃げるのではなく、私と、そして自分自身と向き合っていたなら――違う未来もあったのかもしれません。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。