代替わりした取引先で起きた変化
以前のA社は、気さくな前社長と少人数の社員たちで切り盛りしている、雰囲気のいい会社でした。私たちの工場で作っている特殊ネジを毎月100本ずつ注文してくれていて、納品のたびに「いつも助かってるよ」と声をかけてもらっていたのです。
ですが、半年前に社長が代わってから、会社の空気は一気に変わりました。新社長は経費削減を進め、人員整理もおこなわれていました。残った社員たちに対しても怒鳴ることが増え、工場全体が張り詰めた雰囲気になっていったようなのです。
営業担当の私への態度も厳しくなりました。ある日、いつものように納品へ向かった際も、「遅ぇな。それにお前んとこの商品、高すぎるんだよ」と、不機嫌そうに言われました。
私は事情を説明しながら対応していましたが、新社長は、「ホームセンターのネジのほうが安いだろ」「弱小工場のくせに偉そうなんだよ」と、こちらを見下すような発言ばかり。
私は内心腹が立ちながらも、「もし価格面が合わないようでしたら、ご検討ください」とだけ返し、その場を離れました。
兄夫婦に支えられながら続けた仕事
A社から戻るたび、私は兄夫婦に愚痴をこぼしていました。すると兄は、「いつも嫌な役を任せてごめんな。本当は俺が行きたいくらいだよ」と、気づかってくれました。
義姉も、「前の社長さんは、ちゃんと価値をわかってくれていたのにね」と心配してくれていました。
実は私たちの工場は地方の山間部にあり、材料の搬入や配送にも時間とコストがかかります。私は毎月、片道数時間かけてA社まで納品を続けていました。兄も、「材料費も輸送費も上がっているのに、うちは値上げせず頑張ってるんだけどな」と苦笑していたほどです。
それでも私たちは、「必要としてくれる取引先がある限り、誠実に仕事を続けよう」と考えていたのです。
一方的な契約終了、その直後に…
ところがある日、A社の新社長から突然、「もうお宅とは取引しない。高いから必要ない」と、一方的に契約終了を告げられました。
私は驚きながらも、「わかりました。本当に来月以降は不要ということでよろしいですね」と確認し、その月の納品を最後に取引を終了することになりました。
すると翌月になって、今度はA社から慌てた様子で連絡が入ったのです。
「すぐネジを持ってきてくれ!」
「代わりが見つからないんだ!」
どうやら、他社製品では細かな規格が合わず、生産ラインに不具合が出ていたようでした。
私は落ち着いて、「ですが、取引は終了していますよね。それに、毎月の納品も簡単ではないんです」と伝えました。
そして私は、工場が地方の山間部にあることや、毎月長距離配送を続けていること、さらに輸送コストも含めた上で価格を設定していたことを説明しました。
さらに兄が、「このネジは特殊設備で加工していて、簡単に代替できるものではないんです」と補足すると、新社長は言葉を失っていました。ようやく、「安ければいい」という単純な話ではなかったのだと理解した様子でした。
当たり前ではなかった仕事
その後、A社では取引先とのトラブルや社内の混乱が続いていたそうです。特に現場では、新社長の強引なやり方に不満を抱く社員も多く、以前のようには会社がうまく回らなくなっていったと聞きました。
しばらくして、A社側から改めて謝罪と相談があり、条件を見直した上で、私たちは限定的に取引を再開することにしたのです。今では以前のように、「いつもありがとう」と声をかけてもらえるようになりました。
今回の出来事を通して感じたのは、仕事は商品そのものだけで成り立っているわけではないということです。そこには、作る人の技術や、届けるまでの手間、長年積み重ねてきた信頼関係があります。
それを理解しようとせず、目先の金額だけで判断してしまえば、大切なものを失ってしまうこともあるのだと、改めて感じた出来事でした。
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毎月理不尽な言葉をぶつけられながらも、感情的にならず誠実に仕事を続けていた主人公の姿が印象的でした。商品の価値だけでなく、そこへ至る技術や物流、信頼関係まで含めて「仕事」なのだと考えさせられるエピソードでした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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