しかし、その決断が本当によかったのか疑問に感じるようになるまで、それほど時間はかかりませんでした。
結婚後に変わってしまった夫
結婚前の夫は穏やかでやさしい人でした。ところが、結婚して一緒に暮らし始めると、少しずつ態度が変わっていったのです。
「俺が働いてるんだから、家のことくらいちゃんとやってよ」
最初はその程度でした。しかし次第に言葉は厳しくなり、料理や掃除、洗濯など、何をしても文句を言われるように……。
私は毎日家事をこなしながら、夫が気持ちよく過ごせるよう努力していました。それでも夫は感謝するどころか、欠点ばかりを探しては指摘してきたのです。
ある日、将来のことを考えて「少しだけパートを始めようかな」と相談したことがありました。すると夫は不機嫌そうな顔でこう言ったのです。
「俺の給料じゃ足りないってこと?」
もちろん、そんなつもりではありませんでした。社会とのつながりを持ちたいという気持ちや、自分のお金を少しでも持っておきたいという思いがあっただけです。
しかし、夫は私の話を聞いてはくれませんでした。
夫の口癖になった「離婚」の2文字
それから、夫は何かにつけて私を見下すような発言を繰り返すように。
「専業主婦なんだから、これくらい当たり前だろ」
「そんなこともできないなら、離婚されても文句言えないぞ」
冗談めかしていても、「離婚」というワードをたびたび出されるうちに、だんだんと心はすり減っていきました。
後になって知ったことですが、夫は会社でも私のことを話していたそうです。
「うちの妻は俺にベタ惚れだからさ〜」
「俺なしじゃ生きられないんだよ」
「離婚届なんか見せたら泣くと思うよ」
同僚との雑談だったのでしょう。しかし、夫の同僚の奥さんであるママ友からその話を耳にしたとき、私は情けない気持ちでいっぱいになりました。
夫は私を大切なパートナーではなく、自分の思い通りになる存在だと思っていたのかもしれません。そのころには、私の中で夫への信頼はかなり薄れていました。
夫が差し出した離婚届
ある日の夕食時のこと。いつものように料理に文句を言われた私は、思わず言い返してしまいました。
「そんなに口に合わないなら無理して食べなくていいよ」
すると夫は突然立ち上がり、引き出しから1枚の紙を取り出し、私に手渡したのです。
それは離婚届でした。しかも夫の欄にはすでに署名が……。
「そんなに嫌なら離婚する?」
夫は私を脅すつもりだったのでしょう。私が慌てたり泣いたりするとでも思っていたのだと思います。
しかし、その瞬間、私の口から出たのは予想外の言葉でした。
「本当に? わ〜、よかった!」
自分でも驚くほど自然に出た言葉でした。肩の力が抜けたような気持ちになり、表情も緩んでいたと思います。
夫は一瞬固まり、信じられないという面持ちで私を見つめていました。
初めて伝えた、互いの本音
私は静かに夫へ言いました。
「あなたは仕事を辞めろと言ったよね」
「働きたいと言っても反対したし、家事をしても文句ばかりだった」
「私の気持ちを考えたことはある?」
黙ったままの夫。私はそのまま言葉を続けました。
「実はずっと悩んでた。離婚したほうがラクになれるんじゃないかって」
その言葉を聞いた夫は明らかに動揺していました。そしてしばらく沈黙が続いたあと、蚊の鳴くような小さな声で言ったのです。
「ごめん……」
夫は、自分が家族を養うことに強い責任感を持ちすぎていたこと、そして私を支配するような態度になっていたことを認めました。
「養うのが男の役目だと思い込んでた」
「だから俺の言うことを聞いてくれるのが当たり前だと思ってた」
「本当に悪かった」
それは、初めて聞く夫の本音でした。
最後のチャンス
私はすぐに許したわけではありません。許したとて、傷ついた時間が消えるわけではないからです。
それでも夫が真剣に反省していることは伝わってきました。
私は離婚届を自分の手元に置き、こう告げました。
「これは預かっておくから」
「これからも同じことを繰り返すなら、そのときは提出する」
夫は真剣な表情でうなずきました。
「わかった」
「もう一度信頼してもらえるように努力する」
それからの夫は、少しずつではありますが、変わっていきました。
家事への文句はなくなり、「ありがとう」「助かるよ」と感謝の言葉を口にするように。休日には一緒に掃除や買い物をするようになり、以前より会話も増えました。
私もすぐに心を開けたわけではありませんが、少しずつ夫の変化を受け入れられるようになっていったのです。
そんな日々を過ごしていたある日、妊娠がわかりました。今では夫婦で新しい家族を迎える日を楽しみにしています。
離婚届を突きつけられた日のことは、これからも忘れられないでしょう。しかしあの出来事をきっかけにお互いが本音をぶつけ合ったことで、夫婦関係を見直せたのだと思います。
かつては私を見下し、自分の考えを押しつけていた夫ですが、今では少しずつ相手を尊重する姿勢を身につけようと努力しています。
夫婦はどちらかが我慢し続ける関係ではなく、お互いを尊重し支え合う関係であるべきなのだと、改めて感じています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。