新社長が持ち込んだ無理な要求
元請け会社は地域密着型の建設会社で、先代社長の代から長く取引が続いていました。先代社長が急逝した後、息子が新社長に就任。会社の規模がそれほど大きくないこともあり、営業や取引先対応も自ら担当していたのです。
ところがこの新社長は、打ち合わせでも「納期を1週間前倒しできないか? 長い付き合いなんだから、それくらい協力してくれよ」と無理な要求ばかり。私が工程や安全面の問題を説明しても、「努力が足りないだけだろ」と聞く耳を持ちません。
最終的に現場監督や作業員たちに協力してもらって何とか対応しましたが、現場は連日の残業続きになりました。その様子を見たA澤部長は、「こういう人ほど、現場の苦労が見えていないのよ」とため息をついていました。
安い業者に乗り換えると言い出して…
しばらくして、再びその会社から案件を受注しました。今度は事前に契約内容や納期について細かく確認し、準備を進めていました。ところが工事が始まって間もないころ、突然新社長から電話がかかってきたのです。
「この前の注文、全部キャンセルで」
「もっと安い業者が見つかったから、今回はそっちに頼むわ」
私は耳を疑いました。すでに契約書も取り交わし、資材の手配も済み、人員も確保しています。私が説明しても、「まだ完成してないんだから問題ないだろ?」と軽く言うだけでした。
私は、A澤部長とも相談した上で対応を検討することにしました。新社長には「契約に基づいて対応します」とだけ言って、電話を切ったのです。
1カ月後、まさかの連絡
契約内容に基づき、当社から元請け会社へ請求書を送付しました。工事はすでに着手しており、資材の発注や人員の手配も進んでいたため、発生済みの費用に加え、契約で定められた解約に伴う費用も含まれていました。
すると新社長から、怒りの電話がかかってきたのです。
「こんな金額払えるか!」
「工事なんてまだ途中だっただろ!」
しかし契約書には途中解約時の取り扱いが明記されており、新社長自身も署名しています。電話を代わったA澤部長が内容を説明しても納得できない様子でしたが、最終的には契約内容を認めざるを得ず、発生済みの費用などを負担する形で決着しました。
ところが、それだけでは終わりませんでした。後日、同じ現場に関わっていた関係者から、新社長が契約した新しい業者との間でもトラブルが起きていたと聞きました。
当初は安い見積もりだったにもかかわらず、「追加工事が必要です」「こちらの作業は別料金になります」と次々に追加費用を請求されているとのこと。さらに工事も予定通り進まず、施主から厳しい指摘を受けているようでした。
そのとき私は、安さだけで業者を選んだ代償は想像以上に大きかったのだと感じたのです。
その後の元請け会社
その後、元請け会社では、契約管理や取引先選定を見直す動きがあったと聞きました。
A澤部長は、「価格だけでなく、信頼や実績も大切な判断材料なのよ」と静かに話していました。
私も今回の出来事を通して、経験や技術、そして長年築いてきた信頼関係には、数字だけでは測れない価値があるのだと改めて実感しました。
私もいつかA澤部長のように、どんな状況でも落ち着いて対応できる人になりたいと感じた出来事でした。
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新社長の強引な判断に振り回されながらも、感情的にならず契約やルールに沿って対応した主人公たちの姿が印象的なお話でした。仕事では「安ければいい」「早ければいい」と考えてしまいがちですが、その裏には経験や技術、信頼関係といった目に見えない価値があります。目先の利益を優先した結果、かえって大きな損失につながってしまうこともあるのだと考えさせられるエピソードでした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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