私は小児科病棟で看護師として働いています。勤務はシフト制で、夜勤明けに子どもを保育園へ送る日もあり、夜勤の日は夫や実家に協力してもらいながら、何とか日々を回していました。
それでも、同じ保育園に子どもを通わせるママ友からは、たびたび「看護師さんなら子どもの扱いに慣れているよね」と言われていました。そのママ友とは、同じクラスで何度か立ち話をする程度の関係でした。最初は聞き流していたのですが、ある日を境に、その言葉がはっきりとした負担に変わったのです……。
プロなんだから預かって?
ある朝、保育園へ送っていったとき、ママ友から週末に子どもを数時間だけ預かってほしいと頼まれました。どうしても外せない用事があるとのことでしたが、私は勤務明けで、家で休む予定でした。自分の子どもの世話もあるため、申し訳ないけれど難しいと断りました。
すると少し不満そうな顔をするママ友。「看護師なら子どもの体調変化にも気づけるし、普通の人より安心できるのに」と言うのです。そんなことを言われても、勤務外に他人の子を預かる責任は重いものです。体調を崩したときの判断や、けがをした場合の対応まで考えると、簡単に引き受けられる話ではありません。
その日は引き下がったものの、数日後にはまた連絡が来ました。
最初は数時間だけ、次は半日。別の日には、「用事が夜までかかるかもしれないから、泊まらせてもらえないかな」とまで言われるように。理由は、仕事の用事や実家の母の体調不良など、そのたびに少しずつ違っていましたが、詳しく聞くと話が曖昧になり、私は引っかかりを覚えました。
そんなある日の夕方、夫が保育園へ迎えに行くと、ママ友から同じ話をされたようです。帰宅した夫は、「かなり困っている様子だったよ。無理なら仕方ないけど、何か事情があるんじゃないか。助けてやればいいのに」と、なぜかママ友の肩を持つような発言をしていました。
私は耳を疑いました。夫は私の仕事の大変さを知っているはずです。私が、「いったいママ友はどこへ行くの? なぜ私でなければならないの?」と不満をこぼすと、夫は「看護師だから安心なんだろ。おまえ細かいことを気にしすぎ」と言いました。
その反応に、妙な違和感を覚えました。
不自然にかばう夫
それからも、ママ友からの連絡は続きました。
今度は週末に実母の入院手続きがあるから、朝から夕方まで預かってほしいという内容。私は改めて、他人のお子さんを預かるのは責任が重く、簡単には引き受けられないと伝えました。
するとママ友は、私を責めるようなメッセージを送ってきました。「困ってるのに冷たい」「小児科勤務なら子どもに慣れているでしょうに」と、そんな言葉ばかり。私は返信を控え、やり取りを残しておくことにしました。
夫に再度相談すると、夫はなぜかまたママ友をかばいました。「少し預かるくらいで大げさだ」、「付き合いが悪いと保育園で浮くんじゃないか」と言うのです。私の負担より、ママ友の都合を気にしているように見えました。
そのころから、夫の予定にも気になる点が増えていったのです。
夫は普段、休日出勤や飲み会の予定を夫婦で共有しているカレンダーに入れる人でした。けれど、休日出勤と言って出かけた日に限って予定が入っていなかったことがありました。帰宅時間が遅いわりに、仕事の話を聞くと曖昧なことが多く、車の中に私が知らない商業施設の駐車券が落ちていたことも……。
最初は、考えすぎかもしれないと思いました。けれど、ママ友から託児を頼まれる日と、夫の外出予定が妙に重なっていることに気づいたのです。私は夫を問い詰める前に、記録を残すことにしました。夫の外出日、帰宅時間、ママ友からの連絡内容。感情だけで動くより、事実を整理したほうがいいと思ったからです。
子どもは預からない
数日後、ママ友からまた連絡が来ました。
今度は、週末に仕事の用事が入り、夫も帰りが遅くなるから、子どもを一日見てほしいという話でした。詳しく聞くと、用事の内容はどこか曖昧です。
私は予定があると伝えて断りました。するとその日の夕方、保育園へ迎えに行った夫も、ママ友から同じ相談をされたようです。帰宅した夫は、「俺は土曜も仕事でいないけど、お前なら家にいるんだし、少しくらい見てあげればいいのに」と言いました。
夫がなぜそこまでママ友の事情を気にするのか、私は引っかかりました。
その週末、夫は急な仕事だと言って朝から出かけました。けれど、後で夫の言動や残っていた記録を照らし合わせても、その日に本当に出勤していたとは思えませんでした。
夫の外出とママ友からの依頼が重なることが続き、私は夫婦関係の相談も兼ねて、以前から利用を考えていた法律相談の窓口に話を聞いてもらいました。必要であれば専門の調査会社に相談する方法もあると聞き、迷った末に依頼することにしたのです。
何度か夫の外出予定と重なる日を確認してもらった結果、報告を受けた日、私の違和感は確信に変わりました。
夫は、仕事には行っていませんでした。会っていた相手は、あのママ友。夫とママ友が、私に隠れて何度も会っていたこともわかりました。ママ友の子どもは、その日は別の預け先を見つけていたようです。ママ友が私に子どもを預けたがっていた理由も、そこでつながりました。夫と会う時間を作るために、私を利用しようとしていたのです。
託児を押しつけた理由
私は夫に、これまで残していた記録と、調査会社から受け取った報告内容を見せました。「ただ相談に乗っていただけだ」と言い張る夫。けれど、休日出勤の嘘も、ママ友と会っていたことも、私に託児を押しつけようとしていた流れも、記録と報告内容で裏づけられていました。もはや、言い逃れはできませんでした。
私が許せなかったのは、夫とママ友の関係だけではありません。私の仕事を都合よく利用し、断った私を責めることで、自分たちの予定を通そうとしたこと。その身勝手さでした。
ママ友には、今後個人的な連絡は控えてほしいと伝えました。保育園にも、送迎時に繰り返し託児を頼まれて困っていることを相談し、できるだけ職員の目がある場所で受け渡しをするようにしました。
夫とは、証拠をもとに話し合いました。夫は謝りましたが、私の中ではもう、以前のように信じることはできません。必要な連絡は記録が残る形にし、今後の生活について専門家にも相談しながら整理を進めることにしました。私は、夫とママ友の都合に振り回される役を降りることにしたのです。
守るべきもの
看護師だから子どもを預かって当然。困っている人を助ける仕事なのだから、私生活でも引き受けるべき。そんなふうに言われるたび、私はどこかで罪悪感を抱いていました。でも、仕事として責任を持つことと、個人として無理なお願いを引き受けることは違います。自分の子どもとの時間も、休む時間も、私にとっては必要なものです。
夫とママ友の関係がわかったあと、私は少しずつ生活を立て直しました。保育園でママ友と顔を合わせることはありましたが、必要以上に話すことはありません。夫との関係についても、感情だけで結論を急がず、証拠と記録をもとに今後を考えています。あのとき子どもを預からなかったことを、私は後悔していません。もし引き受けていたら、私は知らないうちに夫とママ友の嘘を支える役にされ、子どもたちまでその都合に巻き込まれていたかもしれません。断ったことで見えたものもあります。
誰かに冷たいと言われても、自分と子どもを守るために断るべきことはある。その線引きを間違えなかったことだけは、今もはっきり言えます。
◇ ◇ ◇
資格や職業を理由に、私生活での負担まで求められてしまうこともあるようです。けれど、仕事として担う責任と、個人として引き受けられることは、必ずしも同じではないのかもしれません。
相手の事情を思いやる気持ちも大切ですが、自分や家族の生活を守ることも大切にしたいものです。無理なお願いに違和感を覚えたときは、その感覚を見過ごさず、立ち止まって考えてみてもよいのではないでしょうか。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。