義母がわが家へ遊びに来た日、私は朝から張り切って料理を作りました。ところが、義母は料理を一口食べるなり「まずい!」と大声を上げたのです。
「こんな料理を息子に食べさせているなんて信じられない!」
あまりにも強い口調で責められ、頭が真っ白になった私。食材が傷んでいたのかと思い、慌てて自分でも食べてみましたが、味見をしたときと変わりません。もちろん、完璧とは言えませんでしたが、とても食べられないような味ではなかったはずです。
しかし義母は、どの料理にも文句ばかり。
「飯マズ嫁」「料理も満足にできないなんて」
見かねた夫は「いい加減にしてくれ。帰って」と義母を追い返してくれました。
飯マズ嫁と言われて自信を失った私
義母にさんざん言われたことで、私は自分の料理に自信が持てなくなってしまいました。
もしかすると、夫は気を遣って「おいしい」と言ってくれていただけなのではないか――そんな不安が消えず、料理が趣味の兄にお願いして、自宅へ食べに来てもらうことにしたのです。
兄は料理を口にするたびに「おいしい!」と笑顔で言ってくれました。私は何度も「本当に? 遠慮しなくていいから正直に教えて」と確認しましたが、兄は最後まで「十分おいしいよ」と言ってくれました。その言葉を聞いて、ようやく少し安心することができたのです。
その数日後、今度は義実家へ招待された私たち。
義母はたくさんの手料理を並べ、「料理はこうやって作るものなのよ」と言いたげな様子でした。どうやら義母は義父にも、私が料理下手だと話していたようです。
「若いんだから、料理はこれから覚えればいい。最初は誰でも失敗するものだから」とやさしく声をかけてくれた義父に、私は苦笑いを浮かべるしかありませんでした。
すると夫が、スマートフォンに保存していた私の料理の写真を義父へ見せながら、「本当は料理がじょうずなんだよ」と説明してくれたのです。写真を見た義父は驚いたように笑い、「それなら今度ぜひごちそうしてもらいたいな」と言ってくれました。
そのやり取りで何かを察したのか、義父はその後も何度も私を助けてくれるように。義母が嫌みを言おうとすると話題を変えたり、自分の料理の話を始めたりして、その場の空気を和らげてくれたのです。
義父の気遣いと夫のフォローのおかげで、その日の食事会は何とか無事に終わりました。
ところが義母は不満だったようで、後日わざわざ私へ連絡してきたのです。
「お父さんも息子もあなたをかばっていただけ、あなたの料理は本当にひどいわ」
「もっと勉強しなさい。毎日あんなものを食べさせられている息子がかわいそう」
さらに、翌週に控えていた義母の誕生日祝いは、私の手料理でもてなしてほしいと言ってきたのです。嫌みを言うための口実なのは明らかでした。
断ろうと思いつつ夫へ相談すると、「実はサプライズを考えている」と打ち明けられました。詳しい内容を聞いて納得した私は、義母の申し出を受けることにしたのです。
義母の誕生日会
そして迎えた義母の誕生日当日――。
約束どおり私は義実家へ向かう準備をしていたのですが、その直前、義母から1本の電話がかかってきました。
「あなたが作った料理、相変わらず見るからにマズそうだったから、全部捨てておいたわ」
勝ち誇ったような声でそう言われ、私は言葉を失いました。
「……その料理、私が作ったものではありませんよ?」
義母が捨てたその料理は、実は私が作ったものではなかったのです。
義母から「誕生日はあなたの手料理が食べたい」と頼まれたとき、夫は義父が別の計画を立てていることを教えてくれました。義父は、日頃の感謝を込めて、自分の手料理で義母を驚かせようと密かに準備していたのです。
サプライズを成功させるため、義母には「私が料理を担当する」とだけ伝え、本当のことは秘密にしていました。
そして今朝、夫は誕生日プレゼントを選ぼうと言って、義母を外へ。その間、義父はひとりで何時間もかけて料理を作り、テーブルいっぱいに並べてくれていたのです。
もともと、義父は夫と義母、そして私と合流する予定でした。みんなで一緒に帰宅し、義母を驚かせる――それがサプライズの流れだったのです。
ところが、料理を終えた義父が合流場所へ向かうため家を出た、すぐあとのこと。義母は「嫁の料理の様子を抜き打ちで見てやろう」と企んだのでしょう。夫がレジで会計をしている隙に「先に帰るわ」とメッセージだけを残し、勝手にひとりで帰宅してしまったのです。
帰宅した義母は、食卓に並んだ料理を見るなり、私が作った料理だと勘違い。そして、一皿ずつゴミ袋へ捨ててしまったのです。その直後、「捨てておいたわ」と私へ連絡してきたのでした。
電話を切った私は急いで義実家へ向かうことに。到着すると、ちょうど夫と義父も義実家に戻ってきたところでした。手料理が捨てられている状況を目の当たりにした義父は大きなショックを受け、自室へ閉じこもってしまいました。夫が慌てて事情を説明すると、義母は青ざめた表情で義父の部屋へ向かい、何度も謝りました。しかし、義父は部屋から出てきません。
とうとう夫は怒りを抑えきれず、義母を問い詰めました。
「どうして父さんの料理を捨てたんだ!」
すると義母は、「嫁が作った料理だと思ったのよ……」と言い訳。しかし、それでは説明になりません。たとえ私が作った料理だったとしても、食べ物を勝手に捨てること自体がおかしいことです。
しかも、「誕生日は私の手料理が食べたい」と言い出したのは義母本人。つまり最初から、私に料理を作らせたうえで恥をかかせようとしていたことになります。
「失敗して恥をかくのは嫁のほう。だから困る前に処分してあげたのよ」
そんな苦しい言い訳を聞き、夫はさらに声を荒らげました。
「まさか、味見もしないで捨てたのか?」
義母は一瞬言葉に詰まり、目をそらしながら「ちゃんと食べたけど、おいしくなかったから捨てた」と答えました。しかし、それを聞いた夫はすぐに首を横に振ります。
義父は普段から料理を担当することも多く、家族全員がその腕前をよく知っていました。そんな義父の料理が、食べられないほどまずいはずがありませんでした。
義母の本音
夫は義母をまっすぐ見つめながら言いました。
「一口でも食べたならわかったはずだよね」
「父さんの料理がおいしくないなんて、そんなわけないだろ」
その言葉に観念したのか、とうとう本当のことを話し始めた義母。
「食べたら……おいしかったのよ」
その一言に、その場は静まり返りました。さらに義母は続けて、「もし嫁の料理がおいしいなんて言われたら、私の立場がなくなるじゃない」と本音を漏らしたのです。
最近、夫が私の料理をよく褒めていることが気に入らなかったそう。
「息子にとって一番おいしい料理は、母親の料理じゃなきゃ!」
そう言って感情的になった義母は、さらに私へ怒鳴りました。
「嫁のくせにちょっと料理がうまいからって得意顔して!」
「少しは姑を立てようと思わないの?」
あまりにも身勝手な言い分に、私も夫も言葉を失ってしまいました。
すると、静かに姿を現した義父が落ち着いた口調で、私たちに昔の話を聞かせてくれました。
「実は母さんは、結婚したばかりのころ料理がまったくできなかったんだ」
義父によると、義母は結婚当初ほとんど料理ができず、義祖母から教わりながら少しずつ覚えていったそう。中には食べるのも大変なほど失敗した料理が並ぶ日もあったといいます。
それでも義父は、一度も料理を捨てたことはありませんでした。
「作ってくれた人への礼儀だと思って、どんな料理でも全部食べたよ」
そう静かに話す義父の言葉には重みがありました。そして義母へ向き直ると、「今日はお前の誕生日だから、喜ばせようとみんなで協力して準備した。その結果がこれなのか」と言って深いため息をつきました。
「正直、今は顔も見たくない」
義父はそう言い残し、再び部屋へ戻っていきました。
その後も義父と義母の関係は修復されることはありませんでした。離婚には至っていませんが、現在は家庭内別居のような状態が続いており、以前のような関係には戻れていないそうです。
夫もあの日以来、義母とは必要最低限の付き合いのみに。そのため、私も義母と関わる機会はほとんどなくなりました。
一方で、義父とは今でも良好な関係が続いています。お互いに作った料理をおすそ分けし合うこともあり、料理好き同士として会話も弾みます。義父はあの日をきっかけにさらに料理へ力を入れるようになり、今ではプロ並みに腕を上げています。
◇ ◇ ◇
どれほど相手に不満があったとしても、食べ物を粗末に扱う行為は決して許されるものではありません。料理の背景には、食材を育てる人や運ぶ人、そして心を込めて作る人など、多くの人の努力があることを忘れてはならないでしょう。
相手への感謝と思いやりを持ち続けることが、円満な人間関係を築くうえで重要であると、改めて考えさせられるエピソードでした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。