婚約者から告げられた別れ
ある日、彼女から話があると言われ、レストランで会うことに。席に着くなり、彼女は浮かれた様子で言いました。
「私、大きな会社の跡取りからプロポーズされたの!」
「花束と指輪を用意してくれて、お店中の人が拍手してくれたの」
「貧乏なケーキ屋の奥さんより、社長夫人になるほうが夢があるでしょ?」
突然の展開に、頭が真っ白になりました。思えば最近、彼女からの連絡は少なくなり、会っていてもどこか上の空でした。
僕は以前、彼女の誕生日に手料理とケーキを用意し、プロポーズしました。派手ではありませんでしたが、心を込めたつもりです。彼女は僕のケーキを「おいしい」と笑って食べてくれました。
あのときの笑顔まで嘘だったのかと思うと、胸が締め付けられました。けれど彼女の気持ちは戻らず、僕たちの関係はあっけなく終わってしまったのです。
店に現れた親戚
失恋の痛みを忘れたい一心で、僕は仕事に打ち込みました。そんなある日、父方の親戚であるB男が店にやってきました。
父が亡くなってから、経営面は親族が営む会社に相談しており、B男はその会社の跡取り息子です。ただ、仕入れを決めるのは僕なので、たまに経営の相談をします。
昔からB男には、僕を見下すようなところがありました。その日も材料費の書類を見るなり、顔をしかめて「このいちご、高すぎるだろ。もっと安いものに変えろよ。客には黙っていればわからないって」と言いました。
そのいちごは、父の代から付き合いのある農家さんが届けてくれるもので、看板商品のタルトにも使っています。僕は「味が変わってしまうから簡単には変えられないよ」と伝えましたが、B男は納得していない様子でした。
仕入れ先から怒りの電話が
後日、いちご農家さんから怒った様子で電話が入りました。B男が僕に無断で連絡し、仕入れ値を大きく下げるよう求めてきた、というのです。
しかも、「この条件で無理なら今後の取引は考え直す」と、取引を打ち切るかのような言い方までしたそうです。申し訳なさで胸がいっぱいになり、僕はすぐに謝罪へ向かいました。
事情を説明すると、農家さんは「君の考えじゃないなら安心したよ。でも、ああいう言い方をされると、付き合い方を考えざるを得ないよ」と、表情を和らげてくれました。
その言葉を聞き、僕は改めて、父が築いてきた信頼を守らなければならないと思いました。
結婚式で再会した相手は…
しばらくして、B男の結婚式に親族として出席することに。ところが式場で新婦を見た瞬間、僕は言葉を失いました。B男の結婚相手は、僕を捨てた元カノだったのです。
つまり、彼女が話していた「大きな会社の跡取り」とは、B男のこと。元カノは僕に気づくと、気まずそうに目をそらしました。一方のB男は、「お前がしつこい元婚約者か。貧乏人のケーキ屋がよく顔を出せたな。俺と比べられてかわいそうに」と鼻で笑ってきます。
周囲の視線が集まり、僕は言い返したい気持ちをこらえました。すると、同じ式に招かれていたいちご農家さんが、B男の父に向かってこう告げたのです。
「その小さなケーキ屋を支えてきた取引先に、息子さんが何をしたか、ご存じですか」
農家さんが、無理な値下げを求められたこと、取引を盾にするような言い方をされたことを伝えると、周囲の空気は一変しました。
守りたかったもの
話を聞いたB男の父は、厳しい表情に。以前から、息子の強引な振る舞いに頭を悩ませていたようで、「取引先を大事にできない人間に、大事な仕事は任せられない」と告げました。
B男は青ざめ、いちご農家さんに平謝り。元カノも事態の大きさに気づき、顔色を変えていました。
後日、B男の父から僕と農家さんに謝罪がありました。また、元カノからは「彼とは結婚しないことにしたの。社長にならないなら意味ないし……。私たちやり直さない?」と連絡がきましたが、もちろん僕の気持ちは戻りません。
僕には、父の店を守るという大切な役目があります。これからも店の味や、支えてくれる人たちを大切にしながら、仕事に打ち込んでいきたいと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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