偶然聞いてしまった彼の電話
違和感を覚えたのは、同棲を始めて間もないころのことでした。ある夜、お風呂から上がってリビングへ向かうと、ベランダで電話をしている彼の声が聞こえてきました。
「社長の娘と婚約したって言うと、みんなうらやましがるんだよ」
友人との何気ない会話だと思い、そのままリビングへ入ろうとした次の瞬間でした。
「でも実際はそんな大したことないよ。アイツ家事はするけど地味だし、寝顔なんてひどいもんだからさ」
友人との会話とはいえ、私のことをそんなふうに話していたことが、とてもショックでした。
電話を終えた彼に、どうしてあんなことを言ったのか尋ねました。すると彼は、「そんなの気にするなよ。本心じゃないって」と、まるで大したことではないかのように言ったのです。
婚約したばかりの彼を信じたい気持ちもあり、そのときは深く考えないようにしていたのですが……。
お酒が入った彼は…
それからというもの、彼は私を名前ではなく「おい」と呼び、料理や家事にも文句を言うようになったのです。そして、その違和感を決定づける出来事が起きました。
ある日、私が仕事から帰ると、リビングで彼が友人数名とお酒を飲んでいました。事前に何も聞かされていなかった私は、慌てて人数分のおつまみや飲み物を用意しました。
すると、彼はお酒が入って気が大きくなったのか、私を見ながら笑ってこう言いました。
「こいつ、もうすぐ30だからさ。俺と別れたら次なんてないだろ?だから俺には逆らえないんだよ」
さらに、「今のうちから言うこと聞くようにしとかないとな」と言って笑ったのです。
部屋が静まり返る中、彼の親友が突然立ち上がりました。
「いい加減にしろ」
親友は、「婚約してから彼女の悪口ばかり言ってるよな。彼女がどんな気持ちになるか考えたこともないのか」と彼を厳しく叱りました。
彼は「男同士の冗談だろ」と言い返しましたが、その場にいた誰も笑いませんでした。
「お前はどうせ俺から離れられない」
その夜、私は眠れませんでした。彼が友人たちに話していた言葉が頭から離れなかったのです。
それから数日悩みましたが、このまま結婚しても幸せにはなれないと思い、私は彼に婚約を解消したいと伝えました。
ところが彼は笑いながら、「本気で言ってる?」と言うと、「俺と別れたら、三十路の売れ残りになるだけだぞ。お前はどうせ俺から離れられないんだから」と言い放ったのです。
その瞬間、もう二人だけで話し合っても無駄だと悟りました。私は双方の親へ連絡し、婚約を解消したいことと、直接事情を説明したいことを伝えました。
味方は誰もいなかった
翌日、自宅へ父と彼のお母さんが来ました。二人の姿を見た彼は、一瞬驚いた様子を見せたものの、すぐに「ただのケンカなんです」と慌てて取り繕いました。
そこで私はスマートフォンを取り出しました。実は飲み会のあと、彼と話し合いになった際、念のため会話を録音していたのです。録音には、私を見下すような言葉がはっきり残っていました。
彼はみるみる顔色を変え、「冗談だから……」と必死に言い訳を始めました。すると彼のお母さんは、「冗談でも、言っていいことと悪いことがあるでしょう」と静かにひと言。
父も、「君のような人に、大切な娘は任せられない」と告げ、その場で婚約は正式に解消となったのです。
必死に引き止めてきたものの…
その後、私は自分の荷物をまとめ始めました。すると、それまで強気だった彼は、「悪かった」「やり直したい」と必死に引き止めてきたのです。ですが、私の気持ちが変わることはありません。
人前で私を見下したことも、「どうせ俺から離れられない」と決めつけていたことも、謝れば済む問題ではありませんでした。
当時は婚約を解消することに大きな不安もありました。それでも、結婚前に彼の本当の姿を知ることができて本当によかったと思っています。
どんなに長く付き合っていても、婚約や結婚を機に態度が変わる人もいます。だからこそ、「これくらいなら我慢しよう」と見過ごさず、自分の気持ちに正直になることの大切さを実感しました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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