聞いてない!
状況が飲み込めず立ち尽くす私に、後ろから夫が軽い口調で言い放ちました。「あ、言ってなかったけど、今日から母さんも一緒に住むから。母さんひとりになっちゃったし、俺たちが面倒見るの普通でしょ?」
事前の相談は一切なく、どうやら数カ月前、私が妊娠初期のひどいつわりで伏せっているのをいいことに、水面下で勝手に同居の話をまとめていたようなのです。「業者とのやり取りは全部俺がやっておくよ」と夫が妙に張り切っていたことも、やっとつながりました。
「そんな急に言われても困る!」と慌てて抵抗しましたが、夫は「ひとまず1カ月だけ! 落ち着いたら俺がちゃんと説得するから」と言い訳を並べる始末。妊娠後期の大きなおなかと段ボールの山を前に、ここで声を荒らげる気力なんて残っておらず、私はいったん現状を受け入れるしかありませんでした。
静かなる逆襲準備
しかし「落ち着いたら俺が説得する」という夫の言葉は、早々に裏切られます。同居が始まると、義母は私の予想をはるかに超える態度をとるようになりました
「妊娠は病気じゃないんだから、家事くらい当然でしょ」
日ごろから「私なんて姑にいびられながら全部やった」と豪語する義母には、若い嫁は鍛えるものというゆがんだ信念があるようです。ソファにふんぞり返り、「お茶、もっと熱くして」と要求し、食事のメニューまで細かく指定するくせに、生活費は一切出しません。
夫に助けを求めても「母さんも悪気はないんだから、うまくやってよ」と面倒くさそうにされるだけ。「1カ月だけ」の約束は当然のように反故にされ、ズルズルと同居が続くうちに私は臨月を迎えました。
夫に何度訴えても「気にしすぎ」と笑って流される状況に、日に日に実家の両親への相談ごとが増えていきました。同居3カ月目に入るころには、意を決して自治体の無料法律相談にも足を運ぶように。言い逃れさせない証拠を残すため、私自身のお守り代わりに、義母とのやり取りをスマホで録音し始めたのもこのころでした。
感動の出産直後……
私は無事に娘を出産しました。産声を聞いた夫は喜びの涙を流し、病室は一時、温かい空気に包まれました。しかしその日の午後、夫が仕事に戻ったあと、廊下から、面会に来た義母の大きな話し声が聞こえてきました。私は嫌な予感がして、シーツの下でそっとスマホの録音アプリを立ち上げました。
ガラッとドアを開けて入ってきた義母は、ベビーコットをのぞき込むなり、デリカシーのかけらもない言葉を放ちました。「あら、なんか小さくない? 大丈夫なの? 私のときはもっと丸々として立派だったのに、出来があんまりねぇ……失敗作?」
私をねぎらうことも、孫をかわいいと言うこともなく、まるで品定めのような物言い。この人に私たちへの愛情はみじんもない――。そう冷ややかに悟った瞬間、私の中で最後の迷いが消え去りました。
退院の日。私は新居には戻りませんでした。迎えに来てくれた両親と自分の実家へ向かい、新居に帰ると思い込んでいた夫には「娘をあの家に連れて帰ることはできません」とだけメッセージを送信したのです。
証拠を手に……!
慌てた夫が義母を連れて実家へやってきました。両親が同席する中、戸惑う2人の前で、病室での「あの暴言」を再生。それを聞いた義母は、「ちょっとした言葉の綾じゃないの。ホント大げさねぇ」と取り繕おうとします。
その瞬間、ずっと黙って聞いていた私の父が静かに口を開きました。「娘からこれまでのひどい仕打ちはすべて聞いております。そのうえ孫まで侮辱されてはたまりませんな。そんなに『出来が悪い』とおっしゃるなら結構。どうぞ、ご自分の『出来の良い』息子さんとお2人で、立派に生きていってください」義母は顔を真っ赤にして黙り込みました。
ようやく事態を悟った夫は真っ青になり、私に向かって必死にすがりついてきました。「母さんには俺から言って出て行ってもらうから! 頼む、帰ってきてくれ!」私はそんな夫を冷ややかに見つめ、言い放ちました。「今さらでしょ? 勝手に同居を決めて、私が何度助けを求めても気にしすぎだって笑ったのは誰?」
私は、当面は別居し、離婚協議を進めると宣言。夫はここで初めて、自らの無責任さが招いた「家庭崩壊」という現実を突きつけられ、言葉を失っていました。その後、家事ができない夫と上げ膳据え膳を期待した義母は新居ですぐに大げんかになり、同居はあっけなく破綻したそうです。夫は調停の末に非を認め、私への解決金の支払いと養育費の負担を約束しました。
もちろん私は、無事に離婚を成立させました。義母に「出来があんまりねぇ」と言われた娘ですが、今では毎日すくすくと育ち、誰よりもかわいい笑顔を見せてくれています。あんな最高の宝を手放した人たちのことは忘れて、私は両親のサポートを受けながら、明るく平和な毎日を満喫しています。
◇ ◇ ◇
自分の経験や価値観を基準に相手を評価し、傷つける言葉を放つことは、家族の尊厳を踏みにじる行為です。そして、一番の味方であるはずのパートナーがそれを軽く扱えば、2人の信頼関係を自ら崩すことにもなります。家族だからこそ、相手を支配しようとせず、誠実に向き合っていくことが大切なのではないでしょうか。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。